嘘さえ愛していたのに

 


向けられた銃口に、そっと触れた。
持ち主の彼がそれにぴくりと反応する。動揺する姿なんて初めて見た。私はぎこちなく笑みを零す。しかしジンはもう反応を示すことなく、その指は未だトリガーにかけられていて。

「どうして」

声が震える。あぁ、聞くつもりはなかったのに。
目の前の黒ずくめの彼のことを、私は何も知らない。素性も名前さえも、教えられなかったし聞きもしなかった。バーで知り合い、何度も――数年の間、このホテルで何十回と抱かれた。たったそれだけの関係。
そう、ジンが煩わしがるだろうことは一切しなかった。ひたすら都合の良い女であり続けた。だけどやはり、邪魔になってしまったんだろう。
銃からゆるりと手を離し、彼を見つめる。私の好きだった長い銀髪が、照明の光を受けて煌いていた。あれにもう一度だけ口付けたかったな、なんて。
愛じゃないけれど、そう思いたいけれど。ろくに抵抗もせず殺されようとしている程には、好意を抱いていたのは事実。自分でも、馬鹿だと思う。
ゆっくりと引き金を引いたジン。その双眸は最後まで冷たく、何の感情も宿されてはいなかった。




 

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