カゲフミ

 


「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」

囁くような歌声が耳障りで、舌打ちを零した。すると押し殺しきれていない笑い声が響く。

「あら、知らないの?」

夕陽が作る日陰から一歩踏み出した女。前回のKOFで顔を合わせて以来、矢鱈と俺に付き纏うようになった奴だ。面倒だし鬱陶しいことこの上ない。

「こうやって遊んだことはない?」
「下らん…おい、離れろ」

こちらに撓垂れ掛かるその腕を払う。大げさに驚いた後、彼女はまたも笑顔を作った。児戯のようなやり取りの何が楽しいのか。
気付かれていないとでも、思っているのだろう。本当に面倒だ。

「今日こそ遊んでくれるのかしら?」
「……フン」
「無視しないでよ」
「………」
「…相手してくれないなら、帰るわ」

応えない俺に愛想を尽かしたようにくるりと背を向け、彼女は歩き始めた。
まどろっこしいことこの上ない。これで駆け引きのつもりか。溜息を吐けば、華奢な肩がびくりと揺れた。

「…馬鹿な女だ」
「な、っきゃ!」

気まぐれに手首を掴んで引き寄せれば、呆気に取られたような女の顔が胸元に収まった。赤く染まったそれにいくらか気が良くなる。
ああ、童唄に誘われたのは俺か。なら目隠し鬼は誰の影を踏む?





 #言葉リストからリクエストされた番号の言葉を使って小説を書く より
 「影踏み、日陰/日影、鬼」で庵夢


 

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