ふたりきり

 

モンスターボックスの闇属性ゾーン。その暗い廊下を歩く。
ある個室の前で止まり、扉に貼られたネームタグを確認して。
緊張しながらも、ゆっくりノックした。

「……誰だ」
「ジーク、私よ」

声が上擦らないよう気を付けながら呼びかける。そう、私が会いに来たのは呪竜の狂王――ジークフリート。

「なまえか……入ってくれ」

了承を得ることができたのでドアを開ける。ベッドと机と椅子しかないシンプルな部屋に、窓から陽の光がやさしく差し込んでいる。そのベッドに腰掛けているジークフリート。透き通った青い色の柔らかな長髪。黒白目が特徴的な真紅の瞳が私を射抜く。彼を一目見るだけで私の胸はきゅうと苦しくなる。
思い切って机の前の椅子に座り、ジークフリートと向かい合わせになってみる。怒られるかな、と思ったけれど彼は何も言わなかった。
いつもの鎧を脱ぎ、インナーだけを纏った姿。その上からでもわかる筋肉質な肉体を思わず注視してしまう。

「なまえ? 何か用があったのではないのか」
「っ! う、うん。ドゥーム周回するから呼びに来たの」

もちろんそれだけじゃなくて、ジークと話すのがメインだけど。パーティーに編成するだけなら部屋まで行く必要ないし。
幸いなことに彼はそのことに気付いていないようで、追求されずに済んだ。

「……そうか。他のメンバーは?」
「えーっと、運枠にバブルボーイ、それにキスキルリラ……あとはソロだから、フレンド枠でノブナガでも連れて行こうかなって」
「了解した」

会話は終わったとばかりに立ち上がるジークフリート。そして静かになる部屋。気まずくて、それでもまだ話していたくて。私は彼が戻ってくることを期待し、誰もいないベッドに向かって頭のなかで次の話題を探す。

「さ、最近……調子はどう?」
「調子、とは」
「えぇっと……ジークがここに来てずいぶん経つけど、何か嫌なことあったりしないかなって」

獣神化するずっと前に私の元へ来てくれたジークフリート。ガチャの引きが弱い私は、彼に世話になりっぱなしだった。初期の頃はジークばかり使ってたな、と少し懐かしい気持ちになる。
ボックスにもモンスターが増えた今、こうして二人で話すのはずいぶん久しぶりで。だからこんなに緊張している。もちろん理由はそれだけじゃないけど。

「いや、そのようなことは無い。充足した日々を送れている」

否定の言葉に頬が緩む。もちろん自分のことだけではないと、そうわかっていても嬉しくて。
だけど。

「だが……何より、こうしてなまえと共に居られることを、心から嬉しく思っている」

後ろから抱きすくめられ、息が止まる。
うるさく鼓動を始めた胸を抑えながらそっと振り向けば、鮮やかな緋色の瞳と視線が交わり。
ふ、と口端を上げたその姿に、いっそう心臓が高鳴った。

「それ……って、どういう」
「好きだ、なまえ」

耳元で囁く声は甘く、甘く。私の鼓膜を震わせる。
いきなりのことに何も言えないでいれば、ジークフリートは私を抱く腕の力を強くして。

「ずっと想っていた。二人になれる機会を探っていたのだが……お前の方から来てくれるとはな」

吐息が耳にかかりぴくりと身体が反応する。
どうしよう。頭が茹だりそうだ。頬が熱い。窓から吹き込む風に撫でられても、冷めないぐらい。

「返事を、くれないか」

開いた唇は渇いていて、上手く声が出せない。
その動きさえ赤い視線で射抜かれるようで。私は無意識に喉を鳴らした。




 

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