※ 微裏 / 煙責め / 根性焼き





熱い。じゅう、と押し付けられ、思わず顔を歪める。口腔内に押し込められたモノに歯を立てないよう気をつけながら。肉の焼ける厭な臭いが鼻をついた。

「下手だな、相変わらず」

鼻で笑われ、陰茎を咥えた唇にいっそう力を込めた。だけど彼は相変わらず余裕げで、次は胸に手を伸ばされる。頂きの蕾を摘みあげられ、僅かに声が漏れた。
庵が煙草で私の肌にまるい傷跡を付けることを覚えて、ずいぶん経つ。一度の行為で付けられる数は数個なので、そこまで火傷だらけというわけでもないけれど。腕、足、背中、腹、今回は首筋だ。じわり、広がる痛みにはいつまで経っても慣れない。
安いホテルで、ソファに座った庵に跪いて奉仕をする。いつもの光景。クッションフロアについた膝から忍び寄る寒さに、ぶるりと背を震わせた。
交わるためだけに私は呼ばれ、身体を開く。未来を約束することも、睦言を囁きあうこともない関係。だけど不毛だとは思えなかった。だって。
上目遣いで彼を伺えば、咥え煙草のままにやりと笑われる。薄暗い室内でもわかる、血のように赤い髪。その陰から覗くのは爛々とした欲を映し出す瞳。何も纏っていない、よく鍛えられた肉体に伝う汗が光って。艶めかしいその姿に目眩がした。

「あまり遅いと夜が明けてしまうぞ」
「っ、ゲホ…っ!」

手で一物を擦り、舌で亀頭を愛撫していれば。顔に煙を吹きかけられる。思いきり吸ってしまい咽せて。それを鼻で嘲笑されてしまう。
まるで煙に焚き染められるようだ。彼の匂いから逃れられなくなる。身体も――心も。

「ちゃんと吸え」
「は、い…っ」

次はちゃんと吸うことができた。頭がくらくらするけれど、縋り付いて必死に奉仕を続ける。
とろりと溢れ出し、太腿を伝ったそれは床に滑り落ちて。気づいて顔が熱くなった。気付かれないようにそっと、内股を擦り合わせる。

「ほら、褒美だ」

次は手の甲に。煙草の火を押し付けられ、身体が強張る。爛れた火傷痕が幾つも残るそこに、新しいものが追加された。
嫌なはずなのに、怖いはずなのに。熱さと痛みに、頬が緩むのは。

「いお、り…」

名前を呟けど、彼が口を開くことはなく。返ってくるのは紫煙だけ。
吐かれた煙が焼け焦げた痕に染みた。決して消えることのないそれらは、まるで独占欲の表れのようで。そう思えるのはきっと、自惚れじゃない。
刻まれた無数の痛みすら彼のしるしだと。嬉しくなってしまう私は、きっともう狂っている。





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