無防備に眠る彼の肩に、ブランケットを掛けた。お酒が入っているとはいえ、他人の部屋で眠るなんて。しかもこんな無防備に。苦笑するけれど、大人しい寝息を立てているアレルヤが起きる気配はない。
まさか彼がトレミーに帰ってくるなんて、思いもしなかった。もちろん嬉しいことだけれど、彼は国連軍との戦いで死んだものだと思っていたから。悲しみに暮れていた頃の涙を返してほしい、と思うのも仕方がないでしょう?
自室の窓から覗く見慣れた宇宙の闇に、星の光が滲む。使い古された机に突っ伏して寝息を立てるアレルヤ。彼とはよく、こうして二人でお酒を飲んだり、話すことが多かった。アルコールにあまり強くないアレルヤが先に潰れるのも、変わらない。
あの時彼は二十歳で、私と同い年だった。もう、五年も前の話だ。なのにこうして、私のことを――私との約束を、忘れずにいてくれる。それが私を慕ってくれているようで、嬉しかった。

「――ハレルヤ」

遠い昔、”彼”に掴まれた腕が痛む気がして。思わずぽつりと呟いてみても、目の前の彼が起きる気配はない。その男の名前は、私の心に刺さった棘のように、ずっと痛みを与えてきた。
あの日。部屋から出ようとしたところだった彼と居合わせて、抵抗虚しくベッドに引き倒されて――。無理やり合わせられた唇も、荒々しい手つきも、暴力的な熱も、すべてが初めてのことだった。
だけど獣じみた行為の最中。ふと合わさった彼の瞳、そこに宿った影に囚われてしまって。重く伸し掛かる二人分の寂しさに負けた私は、そっと彼の背中に腕を伸ばした。
傷の舐め合いにも似た行為はしばらく続いた。段々と軟化していく彼の態度に心を動かされ、自嘲した覚えもある。
けれど、ある時アレルヤが血相を変えて部屋に飛び込んできて。私は全てを察した。ハレルヤと私の関係が、彼に気づかれてしまったのだと。よく考えれば気づかないはずがない。自分の体が、宿ったもう一つの人格に勝手に使われているんだから。
土下座せんばかりの勢いで平謝りする彼に、私は一つの条件を提示した。友達になって、と。
彼の優しさに付け込んで、利用しただけ。人のぬくもりを失うのが怖くて、必死だった。最低だと自分でも思う。
だけどアレルヤはそれを受け入れた。もちろん肌の触れ合いはなかったけれど、彼と二人で居るのはとても楽しかった。今だってそうだ。
でも――彼は私が恋い焦がれた、あの傍若無人な男じゃない。

「ねえ、ハレルヤ…」

オリーブグリーンの髪を撫でる。彼の姿を重ねながら。ああ、私は相変わらず狡い女だ。
もう二度と会えないのだと思っていた。ハレルヤにも、アレルヤにも。だけどアレルヤはこうして、戻ってきた。そのせいで一縷の望みを抱いてしまう。
いつものように意地の悪い顔で、からかってほしい。馬鹿だなって笑って、その筋肉質な身体で私を包んで。願わくば最後にもう一度だけ、あなたに――。
涙が溢れた。幾度その名前を呼んでも、届くことは依然として無い。だって震えるその鼓膜は、アレルヤのものだから。




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