入学式が終わり、満開の桜もすっかり葉桜になった4月の終わり頃は日向ぼっこをするには最高の時期だ。
私がこよなく愛する体育館裏のここは日当たりがよく、なおかつ人目から死角になっているという、授業をサボるには絶好の場所だった。しかし、大抵こういうところは、治安の悪い人たちの溜まり場になっている事が多いのだけれど、ここはバスケ部が使う体育館ということもあり、今まで一度もそういう人達に出くわしたことはない。ただ、1人を除いては。
「よぉ、やっぱサボってたか」
噂をすれば、まさにその人がふらり、と姿を現した。後ろに流した髪を整髪剤でピシッと固め、短ランに、少しだぶついたズボンのポケットに両手を突っ込んで近づいてくるその姿はヤンキーそのものだ。
「だってこんないい日に教室に居たらもったいないじゃないですか」
「はは、違いねぇ」
そう言って笑いながら、水戸先輩が私の隣にどかっと腰を下ろす。いつもクールな水戸先輩は笑うと少しだけ幼い顔になる。それに気づいたときは素直に嬉しかった。

私が水戸先輩と知り合ったのは、ちょうど一年前。第一志望に落ちて滑り止めで受かった湘北になんとなく馴染めずに、ここで授業をサボっていたところ、まさに今日と同じように、水戸先輩が現れた。最初は見るからに不良といったいでたちの水戸先輩がちょっと怖かった。それでも、何度か会話するうちにそういう気持ちは徐々になくなり、1年経った今では軽口を言えるまでになったのだから、人を見た目で判断してはダメだとしみじみ思う。

「春ですねぇ」
「ああ。最高の昼寝日和だな」
水戸先輩が程よく温まったコンクリートの上に寝転び、そうするのが当たり前かのように、私の膝に頭を乗せる。こういう水戸先輩のリアクションに今でこそ慣れたものの、初めてそうされたときは、それはそれは驚いたし、心臓が口から飛び出そうな程ドキドキした。否、今も充分ドキドキはしている。
「先輩、来年の今頃はもういなくなっちゃうんですね」
自分でもなんでこんなことを口にしたのかはわからない。ただ、今膝に乗っている頭の重みや体温が失われてしまうことが急に怖くなって。気がつけば、そう呟いていた。
「いくらなんでも気が早くね?」
早くいなくなれって?って水戸先輩が心底可笑しそうに笑って、私を下から見上げる。切れ長の、見ようによっては少し怖い、でも私にはひどく優しく見える水戸先輩の目で見つめられると、私の心臓の音が勝手に早くなる。
「そんなこと思ってないって知ってるくせに」
自分だけドキマギしているのが、なんだかとても悔しくて私はついつい可愛くない事を口走ってしまう。こういうとき、もっと可愛く甘えられたなら、水戸先輩の特別になれたのかな、なんて柄にもないことを思ってしまう自分がまた悲しい。
「俺は寂しいよ。こうしてなまえちゃんに会えなくなるのは」
「……!」
水戸先輩は本当にずるい男だと思う。ずるくて、それでも嫌いになる事なんて絶対させてくれないひどいひと。
水戸先輩の特別になりたい。この人の全部が欲しい。そんな浅ましい自分の気持ちを必死で取り繕って、私はそっと水戸先輩の整えられた髪に手を伸ばした。


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