*一部痛い表現あり
「神先輩となまえ先輩ってお似合いですよね」
私めっちゃ憧れてるんですよ、と体育館の片付けをしながら隣で後輩マネの子が目を輝かせた。彼女の視線の先には、監督と話している宗一郎の姿がある。
「神先輩かっこいいし、なまえ先輩可愛いし、なんか漫画に出てきそうじゃないですかー」
爽やかな高校生カップルって感じ、と一人キャッキャしてる後輩マネの子とは裏腹に、私は内心、違和感だらけだと思っていた。
爽やか、お似合い、憧れ。
どれもこれも、全く似つかわしくない言葉の羅列。
第三者から見れば、たしかにそう見えるのかもしれない。かくいう私自身、つき合う前の宗一郎にそういうイメージを持っていたことは確かで。そして、それは決して間違ってはいない。海南大附属バスケ部キャプテンにして、神奈川ナンバーワンシューター。試合中も普段の姿も爽やかで穏やかで、女の子に圧倒的人気を誇る。それが世間一般の神宗一郎のイメージだと思う。
「なまえ」
監督と話終わった宗一郎が、私の名前を呼んでこっちに近づいてくる。隣で後輩マネの子がキャーと小さく悲鳴を上げるのが聞こえた。
「明日、いつもの場所で」
宗一郎が一通りの業務連絡を終え、去り際に私以外誰にも聞こえないような小さな声で囁く。反射的に、私の背中がゾクリと震えた。
翌日の昼休み、手早く昼食を済ませた後で私は屋上へ通じる非常階段へ向かう。屋上の扉は施錠されているので、生徒が立ち入ることはない。もちろん、その階段の踊り場もめったに人が来る場所ではなかった。だからこそ、宗一郎はここを逢瀬の場所にしたのだと思う。
「遅かったね」
立ち入り禁止のチェーンを跨いで階段を上がると、そこにはもう既に宗一郎がいた。長い足を投げ出して壁にもたれて座っている彼に、私は小さく、ごめん、と言って宗一郎の隣に静かに腰を下ろす。
「そこじゃないって、いつも言ってるだろ」
私が座った場所が気に入らなかったらしく、宗一郎が苦笑いを浮かべ、視線だけで自分の膝の上に座るように促す。私は小さく息を飲んで、言われるがまま、宗一郎に向かい合うようにして、膝の上にゆっくりと腰を下ろした。
「……っ!」
私が座るやいなや、宗一郎が私の背中に手を回してきつく抱きしめる。
「早く準備して」
首筋に顔を埋めながら、宗一郎が低く囁く。普段と明らかに違うその声色に、肌が勝手に粟立つ。私は黙って頷くと、制服の上着を脱ぎ、リボンを解き、シャツの第3ボタンまで外して肩を露出する。
「ひ、ぁ……ッ」
露になった私の首筋に、焦らすように宗一郎がねっとりと舌を這わせる。生暖かい舌の感触に、私は思わず小さく悲鳴を上げた。たったそれだけで、慣らされた私の身体はゾクゾクと勝手に背筋を震わせた。
「ぁ、ああッ……!!」
私を舐っていた舌の代わりに、宗一郎がゆっくりと首筋に噛み付いた。じわじわとくい込んでいく歯の感触と鈍い痛みに私は悲鳴を上げる。
「やだ、宗一郎、痛、い……んあああッ!!」
私の言葉など聞こえていないかのように、宗一郎が更に深く歯を立てる。無防備な肌に噛みつかれ、気の遠くなる痛みに私は耐えきれず、金切り声を上げる。それでも、宗一郎が力を緩めることはなく、首を噛みちぎらんばかりの力を込めて、私の首に食いついた。
宗一郎が最初に噛んだのは私の小指だった。
初めて噛まれた時の感覚を今でも覚えている。
最初は戸惑いしかなかった。
でも、一方で宗一郎の自分にだけしか見せない顔を見れた気がして、なぜか嬉しくもあった。
それからは、宗一郎が私に噛み付くだけで、背筋がゾクゾクした。私しか知らない宗一郎の秘密。あの優しい宗一郎が私にだけ見せる癖。
これが普通じゃないって事はわかってる。
でも、1度知ってしまえばもう後戻りはできない、私たちのいかがわしい秘密。
今夜も私は鏡の前で、宗一郎につけられた噛み跡を確認するだろう。くっきり残った歯型をなぞって、昼間の痛みを思い出して震えるだろう。
だから、もっと強く噛んで欲しい。
私に消えない跡を残して欲しい。
甘い痛みに苛まれながら、私は静かに目を閉じた。
paraiso