*ラフ・スケッチと同じ世界観
*イヌピーがバイクショップで働く未来軸
*美大生彼女と同棲設定
*イヌピーは彼女のヌードモデルやってる設定
「イヌピー、ケータイ鳴ってんぞー」
ドラケンに言われ、青宗は整備していた手を止めて、作業台の上で震えるケータイを手に取った。
「さみ……」
いつもの上がりの時間よりだいぶ早く店を出て、青宗は駅に向かって少し急ぎ足で歩き始めた。師走になったばかりの今頃、一年で一番寒いのではないかと言わんばかりに、木枯らしが容赦なく吹きつけてきて、アウターの襟に顎を埋めるように青宗は首を竦めた。寒いのが苦手な青宗にとって冬は面白くも何ともない。せいぜい、愛車をかっ飛ばして冷えた街を走るくらいしか、楽しい事なんてない、とさえ青宗は思っている。
先ほどの電話の主は、青宗の恋人、みょうじなまえの携帯から電話をかけてきた彼女の大学の友達、だった。その彼女によれば、なまえが酒を飲みすぎて呂律が回らないほど酔っ払っているので、迎えに来て欲しい、という話らしい。学部の飲み会という事ならば、恐らく女だけじゃなくて男も参加しているだろう場で、ぐでんぐでんに酔っ払うというあまりに危機感のないなまえに目眩と焦燥を感じながら、青宗は駅前の賑やかな商店街を抜け、目的の場所に着くと、少しくたびれた引き戸を開けた。
いらっしゃいませー!、と出迎えた居酒屋お決まりの挨拶を軽くいなし、奥の座敷の方へと進む。師走の週末の夜という事で、店内は満席で賑わっている。喧しい酔っ払い達の話し声をかき分けて、座敷に上がり、見知った背中を見つけると、一気に歩みを速めた。
「なまえ、帰るぞ」
テーブルに突っぷした恋人の肩をぽんぽん、と叩けば、なまえより先に周りが青宗に反応した。
「うそーなまえの彼氏ちょーイケメン」「え、みょうじさん彼氏いんの?マジかー」とかなんとか、不躾な視線や悲喜こもごもな反応など、どこ吹く風で青宗がもう一度なまえの肩を叩く。
「ん……あ、乾くんらー!あははッ」
ようやく目を覚ましたなまえが、焦点の定まらない、とろんとした目で青宗を見て、なぜか笑いながら青宗の首筋にしがみつく。
「帰るぞ、酔っ払い」
そう言いながら、既に立つこともままならないなまえを抱きおこし、背中におぶると、青宗は店の出口に向かってさっさと歩き出す。後からなまえのバッグと靴を持って追いかけてきた電話の主に、軽く礼を言って、店の外に出た。戸を開けた瞬間、冬の空気が入り込んでくる。居酒屋の生温かい空気の中にいたせいか、冷たい冬の外気がかえって心地よい、と青宗は思った。
「ん……乾くん……大好きぃ……」
「はいはい。つーか、いつまでその呼び方なんだよ……」
なまえを背中に乗せて、駅までの道すがら、なまえが青宗の耳元でうわ言のように、呟く。素っ気ない返事を返したものの、耳にかかる吐息も、背中に当たる女子特有の柔らかさも、先ほどから地味に青宗の男の子の部分を刺激しており、そんな事などつゆ知らず、後ろで寝ぼけているなまえの無邪気さに、青宗は心の中で盛大なため息をついた。
アパートの玄関のドアを開け、おぶったまま荷物を置いて、なまえの靴をその辺に放り投げる。半開きの寝室のドアを足で蹴っ飛ばして開け、なまえをベッドにそっと下ろす。静かに毛布をかけてやれば、なまえが身じろいだ。
「乾くん、だっこ……」
「……」
ベッドから離れようとした青宗の服の裾をなまえがきゅっと掴む。一瞬、寝ぼけているのかと、なまえの顔を見ると、とろんとした潤んだ瞳が青宗を見上げていた。
「酒くせーからパス」
「やだ。なら襲っちゃうもん」
そう呟くやいなや、なまえが青宗の腕を両手でぐい、と引っ張った。女の、ましてや酔っ払いの力で引っ張られたところで、青宗は痛くも痒くもない。ただ、なまえがこれからどういうリアクションをするのか、なんとなく興味を引かれて、青宗はなまえのされるがままになってみた。
「……」
いとも簡単に、ベッドに仰向けに寝かされ、青宗の腰の辺りになまえが馬乗りになって、青宗の顔を見下ろす。酒のせいか、立ち位置のせいか、普段のなまえより随分艶っぽく見えて、青宗の心臓が少し不穏な音を立てる。酔っ払いの遊びに少々つき合う程度の軽い気持ちでいたが、これはもしかすると、やばいかもしれない。青宗がそう思ったときには、時すでに遅し。今まで見た事のない、妖艶な表情をしたなまえの唇がきれいな弧を描いた。
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