*リョ彩の結婚妊娠表現あり
*全体的に下世話

携帯に届いた少し遅れる、というメッセージを確認して、三井は周りをぐるりと見回した。地元の人気店だという居酒屋は、週末ということもあり、既に満席のようで、店員の無駄に元気な声がホールに響いている。お通しのナスの浅漬けをつまみながら、ふと周りのテーブルをちらりと横目で見れば、見事にサラリーマンばっかりで三井は苦笑する。確かに味はいいけど、こんな小汚い店にデートに来る客は少ないだろう。でも、なまえは気にしなそうだな、と不意に最愛の恋人のことを思い出して三井は小さく笑った。
「三井サン、ごめん……って一人でなに笑ってんすか、気持ち悪……」
「なっ、お、おせーぞ、宮城」
間の悪いところに、左右で傾きの違う眉毛を少しバツが悪そうに歪ませて現れた宮城が、一人でニヤニヤ笑う三井を見て、眉間に皺を寄せる。不意をつかれて慌てふためく三井を後目に、宮城はさっさと三井の前に座ると、すぐに店員を呼んだ。
「アヤコは元気か?」
「元気っすよ……腹ん中の赤ん坊もね」
宮城が運ばれてきた生中を、グイッと豪快に飲むのを見ながら、三井も同じようにハイボールのグラスを傾ける。宮城リョータは高校時代のバスケ部の後輩で、渡米を経て今は日本でプレイしている。実業団で働きながらプレイしている三井とは違い、宮城はチームと専属契約を結んだ、いわゆるプロプレイヤーだ。ちなみに、宮城の嫁のアヤコは、宮城が高校のときから片思いしていた相手で、バスケ部のマネージャーだった。
「そーゆー三井サンこそ、なまえさんと上手くやってんすか?」
久々の再会で2人とも酒が進み、だいぶ酔いが回ってきた宮城が、やや座り気味な目で三井に尋ねる。
「おう、近々一緒に住むわ」
「え、同棲するんスか?うわ、なまえサン大変そー」
「あ?どーいう意味だよ?」
「だって、三井サン、めちゃくちゃ手かかりそうじゃない」
「おい!」
「それに、アンタ性欲強そーだしさ」
「あ?そりゃ、男はみんなそーだろ。つーか、好きな女とヤって何が悪いんだよ?」
すっかり酔いが回って、下世話な話で揶揄う宮城に、三井がいつもと同じ調子で、ガラ悪く悪態をつく。その瞬間、周りのテーブルから好奇の視線が一気に集まるが、2人とも、周りに会話が聞こえてしまうほど、そこそこに声のトーンが上がっていることには気づいていない。
「はいはい、そうっすね。ま、今月はハロウィンもあるし?あんまハメ外さないでくださいよ」
「ハロウィン?なんだそれ?」
「え、三井サン、もしかしてハロウィン知らないの?」
「知らね。流行りの食いもんかなんかかよ?」
「全然、違うし。あのね、ハロウィンってのは……あ……へへ、えっとね……」
説明し始めるやいなや、宮城がまるで何か悪戯を思いついたような顔をして、三井にもっと近づくよう指で手招きする。宮城は何かを企んだような顔でにやにやしながら、三井にヒソヒソと耳打ちした。



「なぁ、なまえ、ハロウィンってやつ、知ってるか?」
「え?知ってるけど、いきなりどうしたの?」
社員食堂でいつものように、なまえとランチを食べながら、三井が藪から棒に切り出した。あまりに突拍子もなく出てきたハロウィンに、なまえは思わず目を瞬かせる。
「べ、別にどーもしねぇけど……その、なんだ、それ、今年は俺らもやってみねぇ?」
「……うん。いいけど……?」
なんとなく、どこかぎこちないような三井の様子を少し訝しんだなまえが、少し間を置いてから頷いた。
「なんだその顔、嫌なのか?」
「嫌じゃないよ。けど、三井くんがそういう事いうのなんか珍しいなぁと思って」
なまえの返事がいまいち乗り気じゃないのが気に入らなかったのか、三井が少し不機嫌そうな、それでいて、少し不安げな何とも言えない表情を浮かべる。なまえにしてみれば、普段流行りやらトレンドに全くと言っていいほど無頓着かつ、興味を示さない三井の口から出たハロウィンという言葉に違和感しか感じられなかっただけで、嫌とか否定的な気持ちはない。
「あ?俺だって色々考えてんだよ、マンネリとかよ……」
「マンネリ?」
「う、うるせぇな、とにかくハロウィンはやるからな」
何故か顔をうっすら赤くした三井が目を逸らしながら、普段以上に、つっけんどんな言い方をする。どこからどう見ても、様子のおかしい三井に首を傾げながらも、なまえはランチを食べるのを再開した。


迎えたハロウィン当日。
なまえはお菓子や飲み物を買い込んだ袋を持って、三井のマンションを訪れた。アウターの下には、黒いシャギーニットのミニワンピを着ている。毛足の長いファーみたいな触感がちょっと猫っぽいと思って今日の為に選んだものだ。三井に言われてから、いざ、ハロウィンのコスプレを準備しようと色々調べたけれど、どれもなんとなくピンと来なくて、結局普通のそれっぽい服に猫耳カチューシャを着けて、黒猫っぽくすることにしたのだ。そんな話を三井にしたら、何故かすごく嬉しそうな顔をしていた。ちなみに、三井が何の仮装をするのか、なまえはまだ知らない。
「あれ、三井くん休みなのに、今日スーツなんだ?」
玄関のドアを開けて三井を見るなり開口一番、なまえが思わず呟く。それもそのはず、出迎えた三井は何故かグレーのスーツにネクタイという、いつもの通勤スタイルだったからだ。
「あ?何言ってんだ、コスプレだろ。サラリーマンの」
「え、まさかの地味ハロウィン……」
予想外のさらに斜め上を行く三井のサラリーマンコスプレ。よくよく考えると、それがなんだかすごく三井っぽくて、なまえは思わず、ふふっと笑う。
「んだよ。ダメなのか?」
「そんなことない。三井くんのスーツ姿、私好きだもん」
「そ、そうかよ……」
にこにこと微笑みながら、なまえに無邪気にそう言われ、不意をつかれたのか、三井がひどく照れくさそうに目線を逸らした。
「あー……それはそうと、なまえのやつも早く見てぇわ」
「そう言われると、なんか恥ずかしい……ね、いいって言うまで後ろ向いてて?」
三井の照れが伝染したように、なまえも少し恥ずかしそうに下を向く。それから、そそくさとアウターを脱いでワンピース姿になると、バッグから取り出した猫耳カチューシャを頭に着けた。
「いいよー……ッ!?」
合図で振り返った三井が、なまえの姿を見て、一瞬目を見開く。それとほぼ同時に、三井がなまえを腕の中に引き寄せると、ギュッと力いっぱい抱きしめた。
「やべ、すげぇ可愛い……」
なまえを強く抱き締めたまま、三井が耳元で囁くように、低く呟く。
「あ、ありがと……ッ、んっ!」
突然の抱擁と、ど直球な三井の褒め言葉に、なまえの顔がたちまち真っ赤になる。その赤く染まった顔を些か強引に上向かせ、三井がなまえの唇に噛みついた。
「ん、ッ……ふ、ぁ……んんッ!?」
明らかに昼間のスキンシップにしては、度が過ぎる激しく貪るような三井のキスに、慌ててなまえが離れようと三井の胸を押すが、びくともしない。そればかりか、背中をきつく抱いていた三井の大きな手が、いつの間にやら、ワンピースの上からお尻を弄るように撫で始め、なまえは羞恥で全身がかあっと熱くなる。恥ずかしくて堪らなくて、何とか逃れようと身を捩るも、三井の逞しい腕がそれを許すはずも無く。挙げ句に、いつも以上に甘く情熱的な口づけで、身も心もすっかり溶かされて、いつしか抵抗することも忘れて、なまえもまた三井とのキスに没頭した。

「なぁ、そろそろベッド行こうぜ」
「ッ、きゃあッ……!?」
長いキスの後で、ゆっくり唇を離した三井がなまえの耳元で囁く。そういうやいなや、すっかり力の抜けた身体を三井が横抱きに抱き上げたとき、なまえがようやく我に返った。
「ねぇ、三井くん!ちょ、ちょっと待って!今日はハロウィン、するんじゃないの?」
「はぁ?今さら何言ってんだ?そりゃ、するだろ、っつーか、もう始めてっけどよ」
軽々と抱き上げられ、三井の首にしがみついたまま、状況がまるで飲み込めないなまえが、最終確認の意味で、三井の顔を窺うようにじっと見つめる。三井は三井でなまえが何を言わんとしているか、まるでわからず、心底意味がわからないという顔でなまえの顔を見つめ返した。
「あのさ……一応聞くけど、三井くん、ハロウィンって何する日か知ってる?」
「あ?そんなん知ってるに決まってんだろ。ハロウィンに復活する悪魔を払う為に、仮装して男女が一晩中交合うんだろ?だから、今からそれをすんだろーが」
「はぁ?!そ、それ、誰に教わったの?」
三井のあまりに頓珍漢で滅茶苦茶な話に、思わず素っ頓狂な声を上げて、なまえが目を見開く。この時点でなまえには嫌な予感しか感じられない。
「宮城だよ」
「……」
み、宮城くんのバカ〜〜〜!と、なまえは心の中で半泣きで非難の声を上げながら、深いため息とともに、観念したように三井の肩に頭を預けた。それを素直に甘えられていると思ったのか、ひどく優しい目をした三井がなまえの項に軽いキスを落とした。
バタン、と寝室のドアが閉まる音と共に、三井寿オリジナル解釈のハロウィンが幕を開けようとしていた。


大人的ハロウィンの楽しみ方 前編



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