愛とか押し付けで


たとえば死にたいと呟いたとしよう。
すると大抵の生き物は“生きたかったのに生きることが出来なかった人の事を考えろ”
そんな事を言うけれど、いつも思うのだ。




そんな他人の気持ちを考えてどうするのだと。



私は私の考えで死にたいと結論付けていると言うのにそんな他人の気持ちを汲む必要があるのだろうか。
正直めんどくさいのだ。そのような戯言は。




「おかしな話でしょ?私は死にたいと言っているのにそんなあったこともない他人の気持ちを汲んで生きなきゃならないの?うざいんだけど。」




屋上で身を投げたはずなのにつながれた手を見つめてそう呟く。必死に繋ぎとめている彼を呆れたように見て小さくため息をついた。




「だからアンタの価値観で私をこの世に縛り付けるなよ」



「…っ」



生きていたとしてなにも楽しみなんてないのだ。寧ろ絶望しかないというのにどうして生きていかなければいけないのかそれこそおかしな話だろう。けれど私のそんな願いもむなしく軽々と空中から引き上げられてあっさりと彼の腕の中に納まってしまう。




「花子…もう死のうとするな…頼むから」



「…うっざ」



顔を歪めてそう吐き捨てると思いっきり彼の胸を突き飛ばし再び自由を得る。
ひゅうと冷たい風が頬をかすめるのが心地いい。



「大体ヴァンパイアなら愛の証にお前が私を殺すことぐらいしてみなさいよ。」



「そんな事できるわけがないだろう。」



「なら所詮私に向けるお前の愛は虚像と言う事だね。」




私は早く自由になりたいの。
自己満の愛におとなしく縛り付けられるほど私は従順じゃない。もう自己嫌悪のスパイラルから抜け出したいの。



「そんな事はない、俺はお前を」



「だったらその手で私を殺してよ」




紡がれる言葉を遮り睨みつけるととても悲しい瞳をした彼は眼球を揺るがせる。




「本当に愛してるならソイツの願いを叶えてあげたら?それが出来ないならそんなの愛じゃない。只の欺瞞デショ。」



興醒めと言わんばかりにステップを踏んで屋上から出る扉に手をかける。




「嗚呼、そうだ…もし、」




振り返るとそこにいるのは変わらない私に執着する物好きな美形男子。そいつに飛び切りの笑顔で微笑みかけて言葉を紡いだ。




「もし私がお前を愛するときでもきたら、その時は迷わず殺してあげるね。ルキ。」




その言葉に顔を歪める彼を見て、厭味ったらしく笑うとそのまま扉を開いてその場を後にした。



「愛だ恋だの…」




1人そう呟くとその言葉は闇に溶けて消えた。そんなもの只の幻想だ。種の保存プログラムとかが見せる幻覚的なものだろう。
それを大事にするだなんて正直笑えてしまう。




「そんなもんで」



私を解放させてくれない彼を愛する事なんてできやしない。きっと憎むことしかできないだろう。可哀想に彼は一生片想いと言うわけだ。




「かっわいそうなルキ君…」




1人乾いた笑いを残して階段を下りていく。
このまま地獄まで下りていけたら楽なのになぁ
…なんて、しょうもないことを考えながら自嘲気味に口角を吊り上げ歪めた顔は笑っているのか怒っているのかどうなのかとんでもなく歪んでいて悲しかった。




もう私は純粋に笑う事さえできないでいる。





「嗚呼、だから死にたいのに…」


ひたりと零す涙さえ何処か嘘くさくて
もう何も信用できなくて、歪んだ顔のままもう一度だけと小さく笑った。



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