花吐き


「…っ、…っ」



「花子…」



「ぁ…とう、さま…」



扉を開けると一面の赤、紅、アカ…
元凶の彼女は苦しそうに大粒の涙を零しながら
未だに紅を垂れ流す。



「ぅ…え、…ぇぅ…」



成す術がないのだろう、只泣きじゃくり
へたり込んで美しい花を吐き出す彼女は酷く妖艶だ。



どうしてこうなってしまったのか、



誰かを想うだけだった彼女が突然このような病に侵され日々赤い花をまき散らす。
床一面に撒き散らかされた花々を踏みつけながら彼女へと歩み寄ると怯えた瞳で嫌々と首を振る彼女にお構いなしに足を進める。




「ぁ…だ、め…と、さま…うつる…から…っ!」




途切れ途切れに言葉を紡ぎ私を否定する愛おしい娘。そう、この花弁に触れれば病は伝染すると言われている。しかしそのようなもの、私には関係ないのに…
彼女は必死に私の心配ばかりする。




「花子………ん、」



「ぁん…んぅ…ん、ん、ん…」



花を吐き続ける唇を奪い貪れば途切れ途切れに聞こえる甘い声、震える指、そして舌。逃げようとするそれを絡め取って無理矢理浸食すればピクリと跳ねる小さな体が酷く愛おしい。




「ふふ…なんて顔をしているんだい?」



「ぁ…うぁ…あ…」



名残惜しくも唇を離せばどちらかのものとは分からない銀色の糸が口を伝う。
蕩け切った表情で私を見上げる彼女は荒い息で必死に突き放そうとするがどうやら力が入らないようで、こちらから見ればそれはまるで縋り付いているように見える。




「ねぇ、花子…お前は誰を想い、こんなものを吐いているのかな?」



「…っ」



ひとひら、花弁を掬い上げ彼女を見やると
居場所がなさげに瞳を揺らす。




「私は…知っているよ?」



「ぁ…」




いやいやと、首を振る彼女のそれに顔を埋めてベロリと舐めあげると響き渡る甘美なる囀り可愛らしくて何度も聞いていたくて彼女を組み敷き瞳、頬、唇、鎖骨、胸とゆっくりと舐めあげ口付けを落とす。




「ぁ…あ、あ…っ!とう、さま…、やだ…とうさまぁ…!」



「嫌?どうして…?」




その薄い腹をゆるゆると撫でながら
顔を覗き込み、溢れている涙を舐めとれば
小刻み美震える身体を丸めてしまう。
その体のラインを優しくなぞりながら露わになっている耳を舐めとりそのまま囁く。




「お前が愛しているのは私だろう?」




ビクリ、今夜一番大きく体を揺らす彼女を見て
小さく微笑む。嗚呼、可愛い可愛い花子…




「花子…顔を見せなさい」



「ゃ…やぁ…」



無理に身体を開いてやれば
怯えきった瞳とかち合い、可愛らしくて愛おしくて…ちゅっと、小さなキスを落とす。



「愛してあげよう、花子。
…だから、ずっと私に縋りついていなさい
分かったね?」



すると彼女は体の力を抜き、恐る恐る私の首に腕をからませてきた。未だに戸惑いの色を隠せない瞳に思わず笑ってしまう。



「あいして…くださるの、ですか…?娘の…私、を…」



縋る、震える、か細い声
嗚呼、キミのすべてが愛おしいよ花子…




「嗚呼、勿論だ…」



「ぅん…んゃ、あ…ん、んん…ん…」




彼女の言葉を肯定し、もう一度と唇を奪えば先程は逃げてばかりいた舌が必死に健気に私のそれを追いかけ、絡めてくる。
たどたどしいが一生懸命に答えようとしている姿が愛おしい。




「ん、ん、ん…おとうさ、ま…ぁ、もっと…もっと…下さい…ん」


「ん、…花子はキスが好きなのかな…」



「ん、ん…はぃ…すき…だいすき、です…だから…」




子供が求めるように両手を私に差し出して
懇願する花子に優しく頬んで




「いいよ…あげよう」




そう囁いて何度かわからない口付けをくれてやった。



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