お酒はハタチになってから!
「ランダムです。」
「は。」
彼女の真顔の返答に思わず間の抜けた声を出してしまった。しかし、その予想外の回答に面白いモノを見つけたといわんばかりのコウとユーマの笑顔が嫌な予感を確信へと変える。
「じゃぁさ!今夜ぱーっと飲んでみようよ!」
事は数分前にさかのぼる。
「人間ってさぁ。お酒飲むと性格変わるじゃん?花子ちゃんはどうなの?」
コウの何気ないその発言にユーマとアズサは二人同時に花子を見る。彼女はそんな問いにキョトンとした顔をし、うーんと返す言葉を選ぶ。全く、くだらない。そもそもは未成年だろうが。そんな俺の考えをよそにユーマ、ルキ、アズサが思い思いに語りだした。
「アレじゃね?すっげー甘えだすの!にゃんこみたいにさ!!」
「泣き上戸…かも。ふふ、かわいいな…」
「もしかしたらーすっごい愚痴っちゃったり?普段ルキ君に言えない不満だだ漏れ!みたいな★」
「おい、コウ。」
聞き捨てならないコウの発言に思わずツッコミを入れてしまう。
しかし、彼女に延々と自分に対しての愚痴を言われ続ける等想像しただけで落ち込んでしまう俺は相当末期だと思う。そんな会話をしていた矢先の彼女の発言が冒頭のモノだ。
おいおいおいおい、お前は未成年だろう。
何故自分の飲んだ後の性格なんて知っているんだ。そもそもランダムって何だ。突っ込む所は多数ある。
「…お前。」
「まぁ、弱くはないんですけどね。」
いや、そんな回答を求めていたわけじゃない。
俺は大きくため息を着いてこれから起こるであろう大惨事に向けて覚悟を決めた。
「ウエーイ!飲んでる!?飲んでる!?花子ちゃん!あははは!」
…いつもにも増してうるさいコウがの肩を抱いて大声で笑っている。
そうか、コイツは笑い上戸か。
それにしても心配なのはだ。相変わらず無表情で頬を赤く染めることもなく飲んでいるがその周りにはコウ達の比ではない大量の空き缶。
弱くはないと言っていたがここまでノーリアクションだと流石に面白くない。
少し、期待でもしていたであろう自分に気付き少し自嘲する。
「んー…でもぉ、花子ちゃんはかっわいいなぁ〜。初めて会ったときブサイクだなんて言ってごめんね?」
とびきりのアイドルスマイルでそう言ってのけるコウに両頬を包まれた花子を見て少し焦った。コウのこの笑顔に恋をしない女を俺は今まで見たことがないのだ。
俺は出来るだけ冷静を装い、コウの手をから離そうとしたのだが…
「…へぇ?」
ニヤリ。
するり、コウの手を滑らかな手つきで撫で
挑発的に微笑む彼女、を見て俺とコウは固まってしまった。
「え、アレ…?」
「お、おい…?」
ゆるゆる、しなやかにじりじりとコウに迫っていく花子は
普段の無表情ではなくとても官能的で、コウは予想外の出来事に大慌てだ。
それはそうだ、なんせ今の状態は仰向けにソファに押し倒されたコウに
花子が跨っている状態なのだから。
「あ、あの…花子ちゃん…?」
「“可愛い”って思っててあんな暴言吐くなんて…コウ君の方が可愛いね…」
「ル…ルキ君…!ルキ君助けて…!!」
ゆったりと首を傾げて怪しく微笑みそう言った彼女はそのままコウの頬に口付けを落としあろう事か彼の服の下に手を這わせておかしそうに笑った。
「ふふ…つめたぁい…。ヴァンパイアって体温ないんですよね。嗚呼、気持ちいい…」
「あ…あわわわ」
うっとりと声を漏らし、怯えるコウを見る目はまさにサディストのそれだった。
このままではコウがに襲われてしまうと、危機感をもった俺は彼女を引きはがそうと手を差し伸べたが、それは空しく空を切った。
「コウばっかりずりぃぞ!俺も構えよ!!」
ぎゅうぎゅう。そんな効果音が聞こえてきそうな程強くユーマに抱き締められたは
一瞬きょとんとした顔をした花子が状況を理解したのかふうと一つ溜息を洩らし
もぞもぞとユーマの腕の中で自身を反転させ、彼と向かい合わせの態勢をとった。
「なぁに?構ってもらえなくて寂しかったの?」
「おう…寂しかった。」
「ふふ…可愛い。泣かないで?…いいこ。」
「…ん。」
ちゅっちゅとユーマのこぼれる涙を唇で救いあげ
ベロリと彼の瞳を舐めると、気持ちよさそうに声を上げるユーマに満足そうに微笑む。
ちょっとまて、ちょっと待ってくれ。
忘れてもらっては困るが、彼女は、花子は俺のものなのだ。そんな嬉しそうな声を上げるんじゃないユーマ。そしてユーマの腰に手を回して撫でるのをやめろ。
混乱やら嫉妬やらでぐちゃぐちゃな頭で何とか今の状況を打破しようと身体を動かそうとするが、またしても邪魔が入る。
嗚呼、アズサ…何故このようなときだけ動きがすばやいんだ。
「ねぇ、花子さん…俺も…俺も痛いこと、して?」
「んー?…ふふ。」
花子はその言葉を聞いて、柔らかく微笑んで優しくアズサの頭を撫でた、と思えばその手は彼の頬を包んでそっと鼻の傷に口付けた。
「ん…」
「痛いことより…気持ちイイ事…アズサとしたいな。」
その言葉が俺の我慢の限界を超えた一言となった。
「花子!!」
大きな声で名前を叫ぶと、彼女以外の三人はびっくりしたような目でこちらに注目した。しかし当の本人は余裕な笑みを浮かべている。
するりとユーマの膝の上から下り、俺の前までやって来た彼女は未だにその笑みを崩さない。
「無神ルキ君はぁ…」
瞬間唇に触れた彼女の熱いソレ。
まさかの彼女からのキスに動揺が隠せない。
自分でも分かるくらいに顔に熱が集中している。それを見た彼女が満足そうに笑った。
「本当に私の事が大好きなんだね。」
…ああもう、ああもう!
普段見せない顔で、そんな嬉しそうな顔でそんな台詞を言わないでくれないか。
怒るに怒れないじゃないか。
俺は宙を仰ぎまた一つ盛大な溜息をついた。
「お、おはよー…花子ちゃん…」
「う、うす…」
「おはよう…」
「?おはようございます…?」
次の日三人は花子に対してよそよそしかった。それはそうだろう。
コウに至っては花子に襲われかけるし
ユーマは泣きわめくのを優しく彼女に慰められた。
アズサになんかは彼女の爆弾発言を受けたのだから。
しかし当の彼女の反応を見る限りではどうやら覚えていないらしい。
何故三人がそのような態度なのか分からないような顔だ。
「あ、あのー…昨日は…。」
「昨日?…ああ、」
口ごもるコウに彼女はきょとんとしたが
いつもと変わらない真顔でこう言い放った。
「昨日は三人ともとても可愛らしかったですね。」
…なんと彼女は覚えている。はっきりと。
コウは顔を青くし、ユーマは逆に真っ赤だ。
アズサは下を向いていてよくわからないが恥ずかしがっているのはわかる。哀れだな、とまるで他人事のように彼らの話を聞いていたが
「ああ、でも」
と、彼女がとんでもない爆弾を落としてきた。
「嫉妬して怒ってしまったルキさんが一番可愛かったですけど。」
ゴトっ!
思わず読んでいた本を落としてしまい、それを見た彼女がへにゃりと微笑むから、居心地が悪くて俺は誤魔化すように窓の外の景色に目を向けた。
戻る