王様ゲェェム!


「カーニバルで王様ゲームをしたと聞きました。」



「ああ、したな。」


「いいなぁ…」



「仕方ない。おい、アンタ無神の奴ら集めろ。俺はこっちの兄弟集めるから。」


「…逆巻シュウ、お前のその花子至上主義は何とかならないのか。」




彼の腕の中でぼそりと花子が呟いたと思うと
少し早口で逆巻シュウがそう言いながら携帯を持ちながらこちらに指示を飛ばす。 小さくため息をつきつつもそれに従う俺も彼女に十分に甘いのだが。





「ってぇ事で!第二回★王様ゲームwith花子ちゃーん!」



コウの底抜けに明るい声で開かれた戯言だが少しだけ嬉しそうにそわそわしている花子を見て誰一人帰ろうとはしなかった。本当に俺達はとことん花子に甘い。



「さて、みんないっくよぉ?王様だーれだ!」



「俺様だぜ!」



勢いよく手を上げたのは逆巻アヤト。
その顔はとても嬉しそうで、どこかあどけない。やはりまだまだ子供と言う事か…



「じゃぁ最初は軽く…2番が7番にお姫様抱っこされる!でどうだ!」



ガタッ!
その台詞に一つの椅子が揺れた。明らかに動揺しているのは逆巻スバル。どうやら彼が2番で間違いないだろう…哀れな。
後は7番が誰かと言う事なのだが…
そんな事を考えているとスバルの肩に少し小さい手がポンと置かれて彼の肩がビクリと揺れる。そしてその光景にこの場に居合わせた全員が噴出した。



「まままままさかスバル君をお姫様抱っこするのって…!ぶはははは!」



「ちょー!アヤト君ナイス命令すぎるでしょー!」



コウとライトなんかもう目から涙を流しながらの爆笑だ。すまないが実際俺も半ば涙目だ。
だってこれは誰もが笑ってしまうだろう。
なんせスバルを今から姫だきするのは



「スバル…優しくしますから…ねぇ?」



「カカカカカカカナト…ってぅおおおおお!?」



とても可愛らしい微笑みをスバルに向けて勢いよく彼を抱き上げたカナト
もうその光景はとてつもない。今まで我慢していたのだがもう限界だ。全員が全員涙を流して大爆笑だ。スバルはもう顔を真っ赤にして両手でそれを隠す。



「おろ…降ろせよ…マジ、降ろせよ…」



「ふふ、スバルは軽いなぁ…ちゃんと食べてるの?」



「ぶはははははっ!さ、流石俺様!センスありすぎる命令だぜ!スバルざまぁねぇな!」




真っ赤になってまるで乙女の様になってしまったスバルに向けて
紳士的に微笑んだカナト。このアンバランスすぎる絵面を誰かどうにかしてくれ…!



「っはー…しょっぱなから笑ったぁ。じゃぁ第二回戦!王様だーれだ!
…って、俺だぁ!」



きゃっきゃとはしゃぐコウが勢いよく立ち上がる。



「んーとね、じゃぁここはアイドルらしく…3番と6番が某女の子アイドルグループのダンスを踊る!」



なん…だと!?
自身の持ったくじの番号を見て愕然とする。
そう…俺は今回6番だ。
大きくため息をついて席から立ち上がった。
そしてもう一人と目がかち合う。



「ほう、お前か…逆巻の次男。」


「命令内容は納得いきませんが…やるなら完璧にこなしますよ。」



「な、なんだかとんでもない絵面になりそ…」


小さなコウの言葉をきなかなかったふりをして俺達は彼らの前に立った。ああもうどうにでもなれ





「ぅ…っ、ぶは…っ!お、面白い…!面白すぎる!!」



「ルキの野郎…マジ、ぶはぁ!」


「ざ、ざまぁねぇな!レイジ!」


だんだんと机をたたいて爆笑する兄弟が今は恨めしい。



「気を取り直して第三回!王様だーれだ!」


「んふっ♪僕だねぇ…じゃぁ〜あ、5番と10番が熱く抱き締めあって、耳を甘噛みしてぇキスって言うので…どぉ?」



…流石変態だ。この男性率の高すぎる中でその命令はとんでもなく気色の悪いモノだし、チラリと自身の番号を見やってその二つのものではないことに安堵のため息をつく。
すると、隣であーっとめんどくさそうにユーマが唸って後頭部をかく。



「5番俺かよ…ったく、まぁゲームだし?どうってことねぇか。オラ、誰だよ10番。
気持ちよくしてやっからよ。」




その潔すぎる性格はどうにかした方が良いぞユーマ。 確かに男前ではあるが…
しかしその自信満々な彼の表情がガタリと揺れた椅子の方を見て小さく歪んだ。




「へぇ…アンタが俺を気持ちよく…ねぇ。出来るもんならやってみれば?」



挑発的に微笑んだのは片手にひらひらと10番のくじを持っていた逆巻シュウ。
互いに対峙し、両者睨みあう。



「おいニート、俺様のテクに腰抜かすんじゃねぇぞ」



「はっ、冗談…あんたこそ………後悔するなよ。」




ゆるゆるとユーマの胸板を撫でてぎゅっと抱き付くシュウに対して
「上等だ」と低い声で返したユーマは力強く抱き返す。そして彼がシュウの耳元に唇を寄せてゆっくり甘噛みすると「ん」とくぐもった声。



おいおいどこのAVだこれは、と言うかこれではユーマの完全勝利と言ったところか…
しかし、その考えは次の瞬間あっさりと逆転した。



「へぇ…こんなもの、か」



「あ?んだと?ってんぅ…!」



「ん、んん…んぅ…ん、」



な、何をしている!
もう逆巻、無神兄弟唖然だ。
何故なら目の前でなんとも淫らな口付けを交わしている長男と三男がいるからだ。




「ちょ、ちょっとシュウ!僕はそんな熱いキスだなんて命令してないよ!?」



慌てたライトが声を大きくして言うが
そんな言葉にシュウは一旦唇を離してこちらを向いて挑発的に微笑む。



「ああ、そうだな…けど、なんでも王様の思い通りっての気に食わないからな…ん、」



「んんんー!」



ユーマが涙目でくぐもった叫び声を部屋中に響かせた。






「はっ、こんなんでダメになるとか…大したことないな」



「うぅ…穢された」



唇を拭ってゴロリと倒れるユーマに向かって
嘲笑を浴びせてニヤリと笑うシュウに、誰も口答えは出来なかった。
長男の本気は恐ろしいな…




「さ、さぁ次々!王様だーれだ!」


「ふ…俺、だな」


一瞬部屋が凍り付く。
それもそうだ、王様は今回あの恐ろしいシュウだ。


「あー…そうだな、じゃぁ…1番が8番の上に跨って3番っぽい口調で愛を囁く…」


「8番俺だー!」


「3番は俺…だな」


コウがはいっ!と元気よく手を上げる。
それに続いて俺も静かに手を上げる。
と、言う事は1番の奴はコウに跨って俺のような口調で愛を囁く…と


「やだなー!野郎に愛を囁かれちゃうなんてさぁ!しかもルキ君の口調でとか!」


「…あの、1番…私」


『!?』



おずおずと恥ずかしそうに手を上げる花子に全員が注目する。
コウはもう感激で今にも泣きそうだがそれ以外は皆驚愕で目を思いっきり見開いたままだ。
けれど花子はそんな俺達を気にせず、そろそろとコウの前までやってきて
もじもじと真っ赤にしながら小さな声で呟く。




「あの、あのね…?重かったら、ごめんね…?」



「だ、だいじょーぶだよ!どーんと来い!」



「し、失礼します…っ!」



意を決したのか花子はコウの上に跨って顔を真っ赤にして涙目で彼を見つめる。
そんな彼女を間近で見つめるコウは歓喜のあまり破顔している。けれどそんな茶番はそこまでだった。



「え、えと…ルキさんのマネ、で…あ、愛を…っ!」



ぎゅっと一瞬瞳を閉じた彼女は
ゆっくりとその眼を開けた。



「なぁ、家畜…」



「え”」



それはどこまでも甘く、低い声だった。
耳元で囁かれたコウはピシリと硬直、反対に花子は愛おしげに彼の頬を撫でながら
柔らかく微笑んだ。



「お前は誰のものだ…?この俺のものだろう?言ってみろ、その唇で…」



「お、俺…は、花子ちゃんの、モノ…?」



「そう、イイコだ…褒美に従順なお前を…愛してやらない事もない…ククッ」




ああ、うん。俺、だな…それは。
少し恥ずかしくなって、その気持ちを紛らわすために小さくため息をついてみるものの
全員の視線が痛い。



無言だが目線で「お前いつも花子にこんなこと言ってんのか」と言っている。
そして肝心のコウはというとうっとりとした表情で彼女を見つめギュッと腰を抱いている。



「お、おいコウ…」



「ルキ君どうしよう俺新しい扉開いちゃいそう」




その言葉を聞いた途端、スバルが勢いよく花子を助け出し
ぽいっと後ろ手に放り投げる。
彼女を華麗にシュウがキャッチして逆巻バリケードの完成だ。



「ああー!花子ちゃーん!」



「今のはコウが悪い…」


俺の今日一番の大きなため息は宙を舞い
本日の王様ゲームはお開きとなった。


「それで?どうだった?王様ゲームは。」



「うん、とっても楽しかった!」



「そうか、なら…いい。」


相変わらずシュウの腕の中に納まってご機嫌に微笑む彼女を見て
俺も満足げに微笑んだ。



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