もう淋しくないね


「あー…寒いと思ったら雪かぁ…」



居残りをしていた教室の窓からふと見上げるとハラハラと舞い降りる雪たち。もう誰もいないここも随分と気温が下がってきている。


その証拠にはぁ、と小さく息を吐けばそれは真っ白なものへと変わっていく。ガタリとイスを揺らして下校の準備をする。教科書をしまう音、コートを着る音が妙に大きく響き渡る。何だかそれはとても私の孤独感を刺激してしまうのだ。



「…あれ?」



「…遅いです。」


教室を出ると扉のすぐそばに一人、小さく蹲っている可愛らしい一人の男の子。相棒のテディをぎゅっと抱きしめてその大きな瞳に涙をためている。



「カナト君、もしかして待っててくれてたの?」


「ちがいます…僕じゃありません。テディが…」



未だに私と目を合わせてくれないままカナト君はぽつりぽつりと話し始める。
合間合間にテディの手をぴょこぴょこ動かしながら


「テディが…花子さんひとりきりじゃかわいそうだって…今日、なんだか…淋しそうにしてたからって…」


「……そっか。」



別に何があったって訳じゃない。
ただこんな、冬の冷たい日はどうしても、どうしようもなく淋しくて悲しい気持ちになってしまう時があるのだ。カナト君はそんな私を見ていてくれていたのだろうか
それがとても嬉しくて私は思わず彼に抱き付いた。


「…どうしたんですか?」


「ありがとうカナト君。」


「僕じゃないって言ってるじゃないですか…」


「ふふ、私馬鹿だからわかんないや。」



素直じゃないけどこんな時にはとっても優しいカナト君が私は大好きだ。そんな幸せの余韻に浸りながら二人で廊下を歩いていると遠くに見覚えのある変態の影。



「やっほー♪花子ちゃん。…と、カナト君」



「どうしたの?ライト君」



こんな時間まで残っているだなんて珍しいなぁ、なんて思いながら質問してみると私の問いは完全無視でニコニコとこちらに近寄って来た。
そしていきなり事もあろうか彼は私にぎゅっと抱き付いてきたのだ。まぁ身長差があるのでこの状態は細かく言えば抱き締められているという状態に近いだろう。


「な、何…、ライト君!?」


「ちょっとライト、僕の花子さんになにするの!」


「んー?んふっ、僕はぁ、こういう慰め方しかしらないからねぇ。」



少し自嘲気味にそう囁かれた言葉と同時によしよしと優しく背中を撫でてくれる手にちょっと安心して、お返しと言わんばかりに頭をぐりぐりと彼の胸にこすりつける。


「ちょちょちょっと花子ちゃん、くすぐったいよ!も〜!」



「だって柄にもない事するんだもん!でもありがとう、おかげで元気出たよ。」



ふにゃりと笑ってみせると彼も少し安心したように微笑んで当然の様に私の荷物を片手で持って空いたその手を自分の手と繋いだ。


「ライト君?」


「僕達は人間じゃないから温もりだなんて持ち合わせてはいないけれど、でもさ、ないよりはマシでしょ?」



繋がれた手にギュッと力を込めて「ね?」と優しく微笑んでくれた。
ああもう本当にこの人は。


「変態のクセに…」


「えぇ!?ひっどいなーもぉー!」


「ウソウソ、大好きだよライトくーん。」



ぶんぶんと繋がれた手を乱暴に振り回してみると困ったような笑いが廊下に響き渡った。


「よぉ、花子。ちょっとは元気出たみてぇじゃねーか。」



「アヤト君まで残ってたの!?」



校門の前で出くわしたのは少しご機嫌なアヤト君。こんな寒い日でもお胸のボタンは全開である。流石ヴァンパイア様は一味違うぜ。
そんな事を考えてたらいきなり頭に手をのせられてそれから乱暴にわしゃわしゃと撫でまわされてしまった。力加減の知らない彼にこれをされてしまっては正直髪の毛のセットがくずれちゃうーどころではないのだ。


「いたいいたいいたい!首もげる!」


「やっぱお前はそーやってぎゃんぎゃん叫んでる方がおにあいだっつーの!」



ぼっさぼっさになった私の頭を見ておかしそうに笑うアヤト君が少し間をおいて真剣な表情をしたものだから思わずドキリとしてしまう。


「いいか花子。オマエのものは俺様のものだ。勿論俺様のものは俺様のものだ。だからよ、お前のその悲しいとか淋しいって気持ちも俺様のものなんだぜ?」



…なんだよソレ。
私は生まれてこの方、そんな優し過ぎるジャイアニズムを聞いたことがない。
思わずその優し過ぎる俺様発言にポロリと涙を零してしまった。



「おいおい、何泣いてんだよバーカ。」



「ご、ごめんなさ…っ、う、嬉しくて…」


馬鹿にされてもやっぱり嬉しくて零れる涙はとめどなく溢れてくる。だってだってこんなに優しくされるだなんて誰が思っていただろうか
右手にカナト君、左手にライト君、正面にはアヤト君


「みんなみんなだいすき…!」



震える声でそう叫べば三者三様に嬉しそうに微笑んでくれた。
私はそれを見て涙を零しながらも不器用に微笑んだのだった。



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