かぜっぴき〜涙腺崩壊〜


「全く…あれだけベッドで眠るようにと口うるさく言っていたはずですが…?」


「す、すいませ…うぅう〜…」


「嗚呼、もうホラ泣かない!」


「ぅええええん!嫌わないでレイジさーん!」



レイジの軽い説教にボロボロと涙を零して泣きわめく花子。
さっきからずっとこの状況だ。
どうやら最近寒いにも拘らず冷え切った部屋で仕事をしながら眠ってしまい案の定風邪をひいてしまったらしい。ここまでなら別に良くはないが良かったのだが…



「お、おい花子…いい加減泣き止め…な?」



「うぅぅ…ス、スバル君…!こ、こんな情けない私は嫌い…?嫌いだよね…うぅぅ」



「………はぁ。」



どうやら体が弱ると精神的も心細くなるようで
ずっと彼女の涙は止まらない。普段馬鹿みたいに明るい奴だから正直調子が狂う。




「………花子、来い」



「ぅわぁ!?シュウさん!?」



さっきから黙ってたシュウが勢いよく花子を抱え上げてそのままベッドへ放り投げた。
おいおいおいおい!病人相手に何つー乱暴なことしやがる!けれど当の本人は突然のことすぎてベッドの上で呆然と固まっている。




するとそこへ間髪入れずにシュウがもそもそと
花子と一緒にベッドへと潜り込んでいく。そしてされるがままの花子を一定のリズムで優しくぽんぽんと叩きながら
彼女には優しく笑いかける癖にこちらに向いた途端鋭い目つきで指示を飛ばす。



「おいレイジ、おかゆ。スバル、お前はタオル絞れ。」



「っ、穀潰しに言われずとも承知しておりますそんな事!」



「わ、わーったよ!」


レイジは眉間皺を寄せながら足早に部屋を出ていき、俺も普段は感じないシュウの威圧感に圧されて足早に水とタオルを取りに走る。


…全く、何だってんだ一体。レイジは世話焼きだからわかるが、まさかシュウの野郎まで花子をあそこまで構うだなんて思わなかった。そんな事を考えながらもすばやく洗面器に水をためてタオルを取り少しだけ早足で花子の部屋へ向かう。



別に決してシュウと二人きりにしたくなかったわけじゃない。



「おい、花子…」



「スバルく…」



少し掠れた声で俺の名前を呼ぶ彼女の額にそっと固く絞ったタオルを当ててやるとまたじわりと瞳に涙を浮かべる彼女。全く仕方ねーやつ。



「うえええぇスバルんが優しいぃ〜よぉ〜うれしぃぃ」



ボロボロ泣きやがってコイツは。
少し苦笑いして、そっと、あくまでもそっと力加減をして優しく頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めやがる。



「甘酸っぱい雰囲気の中失礼しますよ。」



「な…っ、はぁ!?」


ドアが音もなく開かれて不意に後ろからそんな言葉。
焦って振り返ればレイジが呆れたような顔をして片手におかゆを持ちながら立っていた。


「ホラ、花子さん。食べれますか?」



「ハイ…って、ん。」


彼女の返事でレイジは当然の様にスプーンでそれを一つ掬い上げて何度か息を吹きかけた後ひょいっと花子の口へと放り込んだ。
むぐむぐとそれを飲み込んでとても嬉しそうに微笑んだ花子はまた泣いた。



「おいしい…おいしいですよレイジさんだいすきぃぃ」



「美味しいのは当然ですよ。愛情が籠っていますからね。」




…まったくコイツはどうしてそんなクソ恥ずかしい事をサラリと言ってのけるのか。
とてもじゃないけど俺には真似できねぇ。
すると花子を包み込むように抱き締めてたシュウがちゅっと彼女の涙を唇で掬いあげて
また優しく微笑んだ。



「今日はずっとここにいてやるから…な?花子」



「シュウさんまで優しいぃぃ!うわぁぁん!あいしてるー!」




感激した花子はまた泣きだしてそんな彼女を見てレイジとシュウは困ったように笑った。
嗚呼、これが大人の余裕ってやつか。



少し、ほんの少しだけそれが羨ましくて“俺も一緒に居る”と言葉で伝えられない分ギュッと花子の手を握ってみると
彼女は少し驚いた顔をしたがすぐに嬉しそうに微笑んであの二人に対したものと同じように涙を零した。



戻る


ALICE+