脇役道化師


誰かを羨む人生でした。
そう、いつだって私に主役は似合わない。




幼い頃から兄が嫌いでした。
私がどれだけ努力しても手に入らないもの持っていた彼が憎くて仕方なかった。
けれど本当は知っていました。



彼もまた私とは違った悲しみや苦しみを持っている事を。




只それを受け入れ認めるには余りにも幼くて、嫉妬や憎しみに任せて彼の手のひらから全てを奪い去ったのです。
そんな事をしたところで物語の主役にはなれはしないと言うのに実に滑稽な話だ。



そして緩やかに時は流れ、それでも私は何かの主役になることはなかった。
只々誰かの隣に添えられるだけの脇役。
その度に妬みや嫉みで気が狂いそうだった。
こんなにも努力をしているのに誰も私を見てはくれない。



スポットライトを浴びるのはいつだって私ではない誰か。



もう疲れたと、いっそ諦めてしまおうか。
そんな事を考えていたら不意に小さな薄暗いピンスポットが当てられているのに気づいたのだ。




「レイジさん、レイジさん!大好きです!」




物語のヒロインが私の名を呼び愛を囁く。
嗚呼、どうして?
主役は私ではありませんよ。




「私はレイジさんが、レイジさんが良いんです。」



ニッコリ微笑むその笑顔は私が焦がれていたスポットライトそのものだった。
ずっと影で人生を演じてきた私には余りにも眩しすぎて思わず目を覆う。
けれどそんな私にお構いなく貴女は無邪気に腕を強引に引っ張って舞台の中央へと引きずり出す。



「私で良いのですか?本当に…?」



戸惑う私を見つめて貴女は満足そうに微笑んだ。



「貴方じゃないと私は駄目なんです。」



嗚呼、嗚呼。
私はその言葉を聴きたかったのだ。
別に大衆の主役になんかには興味はない。
誰かの、誰かだけの主人公になれたらどれだけ幸せだろうかとずっと思っていた。




「花子、さん」


名前を呼ぶだけで貴女はこんなにも幸せそうに微笑むのか。




「花子さん、私は貴女の王子になれるでしょうか」



ながく、ながく
脇役しか演じてこなかった私が貴女だけの王子に…
戸惑い気味に、けれど離さないよう私でなければ駄目だと、待ち望んでいた言葉をくれた貴女を抱き締める。
すると腕の中で嬉しい、幸せだとはしゃぐ貴女。
嗚呼、ちゃんといたじゃないか。
私にも私を必要と、見てくれる人が…




「花子さん、私を愛してくれてありがとうございます。」



もう離さないようにと、ギュッと腕に力を込めてようやく私は心から微笑む事が出来たのだ。




「きっと誰よりも貴女を幸せにしてみせますよ」




舞台端から誰かを羨んでいた滑稽な脇役なんてもういない。
哀れな脇役道化師は唯一無二、自身のヒロインを見つけだすことが出来たのだから。


「愛しています、花子さん。誰よりも、誰よりも」



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