幼稚な独占欲
「なんで花子がこの学校にいるんだ…」
「あら、言っていませんでしたっけ。」
真っ赤な鋭い瞳が私を睨みつける。
何も話さないが「聞いていない、どういうことだ説明しろ」とその眼が言っている気がしたので小さく息をついて一言。
「転入してきたんですよテ・ン・ニュ・ウ。」
「分かった…それは分かった。後はそうだな、お前のその後ろの三人を説明しろ!」
「それは私の方が聞きたいですよスバル君。」
ずしり。
そう言う効果音が適切だろう私の背中には三人分の体重がのしかかっている。
正直重すぎて潰れてしまいそうだ。
「アヤト、カナト、ライト!いい加減花子から降りろ!うぜぇ!」
「うるせーよスバル!弟のモンは俺様のモンなんだよだから花子も俺様のモンだろーが!」
「違います。花子さんはこれから僕のお人形になるんです。ねぇ…?花子さん。」
「違うでしょー?花子ちゃんはぁ、僕とイケナイ遊びをするんだよねー?」
スバル君が我慢の限界と言わんばかりに吠えると彼のお兄さん達はそれぞれぎゃんぎゃんと喚く。あの、煩いし…本当に重いです。
どうやら転校早々この問題児三人組に気に入られてしまったようで、授業が終わってからずっとこれだ。
「アヤト!カナト!ライト!何をしているのですか!花子さんに迷惑をかけて!」
ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ!
そんな怒鳴り声と共に鈍い音が三回連続聞こえたかと思うとふと体が軽くなった。
顔を上げれば怒りで眉間に皺を寄せたメガネの紳士様が立っていた。
「あ、逆巻先輩。」
「レイジで結構ですよ花子さん。この馬鹿共がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
「けれど逆巻先輩は先輩ですのでお名前で呼ぶなどおこがましい事は…」
「ふふ、真面目ですね貴女は…」
彼は三つ子の首根っこを器用に引っ張りながら私の言葉に機嫌を良くしたのか
優しく微笑みかけて空いている方の手で二三度私の頭を撫でた。
「では先輩命令です、レイジとお呼びなさい。ホラ!行きますよアナタ達!」
逆巻先輩…いや、レイジさんはそう言えばまた怖い顔をして三人をズルズル引きずって行く。
時折「離せ!シチサンメガネ!」とか「眼鏡のクセに生意気です!」とか「レイジおかあさんみたい♪」
とか聞こえたのだがまた鈍い音が三回して一気に静寂が戻った。
大丈夫なのだろうか、あの三人は…
「…さて、」
「おい花子何処へ行くんだ。」
「何処って、私の聖地ですよ。」
体の自由がきくようになったところで私は自身の足を目的地へと向ける。
するとスバル君は小さく舌打ちしながらも少し私との距離を取ったまま同じ方向へと歩き出す。
…本当にこういう素直じゃないところは昔と変わらない。
「…お前ほんっっと好きだよな。本。」
「えぇ、好きですよ。」
ペラペラとページを捲り視線を落としたまま彼の言葉に答える。
私の聖地、もとい図書館は本当に居心地がいいのだがそれは私だけのようで先程からスバル君はスバル君は落ち着かない様子だ。そんな彼の態度に私は苦笑い。
「こう言う所、苦手ですよねスバル君は。別に無理して私に付き合わなくてもいいですよ?」
「別に…嫌じゃねぇよ。」
少し、ほんの少しだけ意地悪な私の言葉に彼は不機嫌な顔をふいっと逸らしてしまった。
嗚呼、少し苛めすぎてしまったかしら。
「ふふ、ごめんなさいスバル君。許してください。」
「………怒ってねぇよ。」
「そうですね、怒ってはいませんね。拗ねてるんですものね。」
私は静かに笑いながらそう言えばまた小さく舌打ち。
本当に可愛らしい反応をする。
暫く静かにページを捲る音と、つまらなさそうな彼の視線を楽しんでいると
ガラガラと扉が開かれる音がしたので不意にそちらを見やる。
扉を開いた人物は何故か少しだけ驚いた表情でこちらを見つめていた。
「なんだ、逆巻の末っ子がこんな所にいるだなんて明日は雪でも降るのか?」
「るせぇよ!もがっ!」
「スバル君図書室ではお静かに。お知合いですか?」
大きな声で怒鳴る彼の口を素早く手で押さえてチラリとスバル君と彼に視線を送ると不機嫌なまま何も答えてはくれなかった。
「まぁ、お前がどこにいようが俺には関係ない話だが…ん?貸出中か…タイミングが悪いな。」
彼は小さく笑いながらお目当てであろう本棚まで移動して目的のものを手にしようとしたらしいがどうやらソレはそこにはなかったようで残念そうにため息をついた。アレ、もしかして彼が探している本…
私は手に持っているソレをチラリと確認し、パタリと乾いた音を立てて席を立った。
「あの…」
「ん?」
「お探しの本、こちらでは…?」
今まで読んでいた本を彼に差し出すと彼はその真っ黒な瞳を見開いた。
「お前が読んでいたんだろ?…いいのか?」
「えぇ、構いませんよ。」
「…そうか、ありがとう。」
嬉しそうに微笑むものだから私もつられて笑うと扉の方からこそこそと話し声。
“ちょっと!見た!?ルキ君あんな笑い方するんだー!あの子何者かなぁ!?”
“別嬪さんじゃねぇかオイ。やべぇ好みかもしれねぇ。”
“あの子…俺の事、傷付けてくれないかなぁ…ふふ”
…なんだか最後物騒な台詞が聞こえた気がしたがどうなのだろうか。
私がチラリと扉を見てみると上から金髪、茶髪、黒髪の美少年がこちらを覗いていて
目が合うとガタガタと大きな音を立てて総崩れを起こしてしまった。
「………すまない、俺の弟達だ。」
ルキ、と呼ばれた彼は長ーいため息を吐いて彼等の元へ向かいげんこつを三発お見舞いする。
あれ、これデジャヴ?
そして予想通りその三人をずるずると引きずりながら図書室を後にするルキさん。
なんだろう、この高校には母親属性のイケメンが多いのだろうか…。
「…おい、」
「どうしましたか?スバ…」
振り返るととても不満そうな彼にいきなり抱き締められてしまった。
怒りからか嫉妬からかギリギリと強い力で締め付けられて息が出来ない。
「お前は俺のものだろ。」
嗚呼、そう言えば彼はとんでもなく独占欲が強いんだった。このまま絞め殺されでもするのだろうかと呑気に考えていたけれど
それは現実にはならず、代わりにするりと私の体はスバル君から引き離されてふわりと背中から誰かに抱き締められた。
「スバル、力任せに抱き締めたらコレ…壊れるから。」
「シュウ…!」
ゆっくりと、ふわふわとした口調でスバル君を咎める彼をとても怖い顔で睨みつけるスバル君。
シュウ、と言えば彼のお兄さんの一人じゃないか。
「花子返せよ!」
「やぁだ。お前の叫び声の所為で俺の折角の安眠を妨害されたんだ。罰はキッチリ受けてもらわないと…なぁ
…アンタ花子って言うんだ。…ヨロシク。」
シュウさんはそう言うと小さな音を立てて私の唇に触れるだけのキスを落とした。
「てめぇ…!」
「何、壊す?コレ。お前は気に入らなければ全部壊すからな…そのガキのままの独占欲で花子を壊すの?まぁ別にお前の愛の形に俺はとやかく口を出す気はないけれど…」
意地悪に嘲笑するシュウさんは怒りを露わにしたスバル君に「嗚呼、でも」と付け足して
その綺麗な青い瞳を細めた。
「目の前でその大事なものを奪われるお前の顔を見るのも悪くないかも…な。」
今俺は起こされてとても機嫌が悪いから…
クツクツと低い声で彼は悪魔の様に微笑んでギラリと光るその牙を露わにした。
嗚呼、この後私はどうやって目の前の泣きそうな顔のスバル君のご機嫌を取ればいいのだろうか
何処か他人事の様に考えを巡らせながら、広がる痛みと血の香りにギュッと瞳を閉じた。
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