黒猫参謀の憂鬱
「にゃー…(何だコレは)」
目が覚めるとベッドが異様に広くて身体が無駄に軽かった。声を出してみると「にゃー」しか発することが出来ない。俺は未だに夢でも見ているのだろうか。ふと鏡を見てみればそこに写ったのは俺ではなくて一匹の黒猫。
…いやいやいや、無いだろうこれは。軽くパニックに陥っていると突然開かれた扉。嗚呼、そう言えば今日は彼女がやってくるんだった。
「ルキさん、失礼します…ってアレ。いない。」
「にゃ…(花子)」
「猫?…って黒猫…。」
俺を見つけた花子はひょいとそのまま抱き上げてそのままソファへ連れていき、腰を落とし俺を膝の上に乗せる。や、柔らかい…
「すっごいスタイルいいねお前。」
「にゃ〜…(ちょ、くすぐったい…)」
身体のラインをそっと撫でてくるものだからたまらず身を捩るとクスクスと楽しそうに微笑む花子に悪い気はしなかった。
「それにしてもルキさんはどこに行ったんだろ…ねぇお前は知らない?」
「にゃ!(俺だ!)」
必死になって叫んでみるもそれは通じず。時間がたつにつれて彼女の表情がだんだんと淋しげなものになっていく。
「ぅう…淋しいよぉ…ルキさぁん…」
泣くな馬鹿。
今の俺ではお前を抱き締めてやることさえかなわないのだから。せめて、今出来ることと言えばその涙を舐めとってやることだけだ。
「ん…、黒猫ちゃん、もしかして私ルキさんに飽きられちゃったとか?」
全く、お前はどうしてそんなに馬鹿で単純な考えしかできないのか。そんな訳ないだろうが。
お前に飽きるだなんてそんな馬鹿げた事あるはずないだろう。
「あのね、ルキさんってすっごく格好良くて、優しくて、素敵な声でもうホントいつもなんで私なんだろうって思っちゃうんだー。
…いつも、不安なの。」
淋しげな顔で本人を目の前にしてそんな事を言うだなんてお前は俺が元に戻った後の覚悟は出来ているのだろうな。そんなに不安なら、そんなもの感じる余裕がないくらいに愛してやるよ。
「ルキさん、ルキさん…淋しいよ…はやく、戻ってきてください…」
ぽろぽろと涙を流すこの家畜をどうしてやろうか。もう今はそんな事しか頭にない。俺はいつの間にこんなにもお前を甘やかしてしまったのだろうか。これではまるでお前は俺なしでは生きることが出来ないみたいではないか。そのように躾けたのは紛れもない俺だがな。
目の前のあまりにも愛おしい花子に思わず猫のままキスを落としたら大きな爆発音とともに俺の体は元に戻った。
「え、えぇ!?ルキさん!?ぅええ!?」
「ああ、どうやら元に戻ったようだな。」
目の前には真っ赤な顔をして大慌てな花子。それもそうだろう。今まで俺を膝の上で抱いていたのだから、その状態で元に戻っている。と、言う事はヒトの形をした俺も現在進行形で花子の膝の上に乗っていると言う事になる。
「俺がいなくて寂しかったのか?」
「ぅ…」
「嗚呼、それといつも愛されているか不安だったんだな。」
「うう〜…」
未だに紅潮が収まらない彼女にそのまま覆いかぶさってクツクツと笑えばもう限界と言わんばかりに両手でその顔を覆う花子はとても愛おしい。
「コラ、主人に顔を見せないか。」
「ゃ、だって…今、」
「花子、イイコだから…」
優しくそう囁いてやれば彼女はどんな命令だって聞くことはもう既に学習済みだ。赤い彼女の頬と瞳を舐めればビクリと震える体に煽られる。
「お前の本音を聞けるのであればたまには猫になるのも悪くないな。」
噛み付くように口付けを落とし、低く笑った。
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