ダル男君のおたんじょうび


「誕生日…?俺達ヴァンパイアがそんなもん祝うと思ってんのアンタ…めんどくさい。




…って言うと思ってたのにー!」




「何、今の。俺のマネ?妙に似てるのがまたムカつく…」



「へぶぅ!彼女の顔面にアイアンクローとか鬼の所業!!」



「愛しい彼氏の誕生日に仕事朝から晩まで入れてるクソ彼女に言われたくない。」




ぎぃぃぃぃ!言い返せない!!シュウの言葉通り、私は彼の誕生日に丸一日仕事をぶっこんでいた。
理由は簡単。万年寝太郎、穀潰し、無頓着、無気力、めんどくさがりな彼がまさか自分の誕生日に執着してるだなんて思ってもみなかったのである。



そんな訳で帰宅したのは22時。あと2時間でシュウの誕生日が終わるなー。
なんてのんびり考えながら扉を開けたらなんとそこには仁王立ちで無表情ながらも怒りを前面に押し出したシュウが待ち構えていて事もあろうに彼女である私の頭を鷲掴みにしてそのまま部屋へ強制連行して今に至る。




「だぁってシュウが誕生日祝えだなんてキャラじゃなさすぎるんだもん!」




「アンタ…何にもわかってないな。」




呆れた、と言わんばかりに長い溜息を吐き、
「いいか?」と相変わらずだるそうな、けれどいつもよりどこか早口で彼の真意を聞かされる。




「俺は別に誕生日とかどうでもいいと思ってた…今までは」




「うん」




「けど今日は俺とお前が付き合いだして初めての誕生日だろ…」



「う、うん?」




「一緒に居たいって思ってたのは、俺だけ?」




「…………ちょ、ちょっと待って逆巻君マジ待って。」




とても不機嫌で、不服そうな、どこか拗ねた顔をしながらシュウは私の瞳を覗き込むものだから彼のそのあまりにもの可愛さに私は思わず顔を真っ赤にして彼の目から背けた。




何ソレ反則だろう。可愛すぎだよシュウ。今私はお前の可愛さにフルボッコだよ。無気力穀潰しのクセにそんな可愛い事考えてたのか。これじゃどっちが彼女なのかわかんないよ。




「ちょっと、花子。顔見せろよ…」



「や、無理…今シュウが可愛すぎて悶絶してるから無理。」



「…可愛い?」



ん?アレ?心なしかシュウの声が低くなったような…
そう思ってた瞬間、強い力で顔を彼の方へ向き直されて直後に口にねじ込まれた舌に思考がショートした。




「んむっ…!ん、んん…しゅ、ぁむ…!んん!」



「可愛い奴は、こんなキス・・・しないだろぉ?」



「くっそおおおお!このイケメンがぁ!!」



「煩い、黙れ…んっ」




小さな水音だけが私の耳を犯して貪られる唇に快感が波打ってこのままじゃどうにかなりそうだった私はぎゅっとシュウの服の袖を握ると
それを合図としたかのようにそのままベッドに押し倒されてしまった。目の前には見慣れた天井とシュウの顔。




「どーせ馬鹿で愚かで鈍感な花子の事だ、プレゼントなんて用意してないんだろう?」



「ワォ。シュウは私の事が何でも分かるのね!」



「…アンタ本当に俺の彼女なわけ?」



私のそんなふざけた回答に眉間にしわを寄せて
額に軽くデコピンを食らわせてきた。うぅ…痛い。



「後、1時間32分」


「は?」



彼の言葉に思わず時計を見れば現在22時27分。
視線を戻すと彼はとんでもなく意地悪な表情を浮かべていた。
―もはやこの時点で嫌な予感しかしない。




「1時間32分俺に奉仕して、自分で全部動いて。…プレゼント、それで許してやる。」



「…数分前の可愛いシュウ君を返せ!」




私が悪態をつくと彼は尚もその意地悪な微笑みを崩さないまま私の手をグイッと引っ張り上げて景色を逆転させた。今は彼がベッドに寝そべっている状態だ。



「ほぉら、俺は何もしないから…な?花子。」



「やだもうこのお誕生日様マジ性的。」



「いいから…キス、して?」




ああもう、ああもう!
そんなベッドに寝そべって、いやらしい微笑みで甘く囁くんじゃない。悔しくて愛しくて愛しくて私は噛み付くようにその薄い唇にキスをした。



「残りの誕生日も、お前がこうして愛してくれるなら…何もいらないな。」



シュウがそう小さくつぶやいたのを聞いて私はその幸せな感覚が
くすぐったくて微笑んだ。



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