社畜vsイケメン貴族様


「なぁ、アンタ。俺と仕事どっちが大切な訳。」



「あぁ?んな子供じみた台詞聞きたくないよ。因みに答えは仕事だねー。」



「………うっざ。」



「黙れよガキ。そして締め付けないで内臓出ちゃう。」



ぎゅうう。
カタカタ。



家に帰って来てからもノートパソコンを開いて尚も仕事を続けている私に対してこのクソ生意気な貴族の彼氏は先程から文句を垂れながら後ろから抱き締める力を強くする。私はそんな彼を無視して更にキーボードを打つ指を早める。




「なぁ花子、構えよ…暇。」



「なぁんで今日に限って構ってちゃんなの?いつもみたいに音楽聴いて寝てなよ。」




眠気覚ましのコーヒーを啜りながらも入力する指は止めない。生憎仕事が詰まってしまっていてこの構ってちゃんの相手をすることが出来ない。というか、こういうのって大体男女逆じゃないのか?そんな事を心の中でツッコミつつも抱き締められたまま片手で書類を確認、片手で入力をしてゆく。



「はぁ…めんどくさ。」




「じゃぁ私みたいなオバサンやめてもっと若い娘に行けばいいのに。」




それはずっと疑問に思っていたことだ。
こんなイケメンで金持ちな彼がどうして私なのか。きっと彼なら女の子なんてより取り見取りだろう。




「シュウは、どうして私なの?」



「…何、不安?」




そっと、キーボードを叩く私の手に自身のそれを重ねてくるからふと動かしていた指を止める。ああ、冷たいな…




「そりゃ、イケメン貴族のヴァンパイア様の彼女って…ねぇ?」



「大丈夫…俺には、アンタだけだから。」




そのまま私の手を取ってちゅっと可愛らしい音を立てて口付けを落とす。指先、手の甲、首筋、そして唇。ゆっくりと、甘いキスに思わず溺れてしまいそうになる。




「今も、これからもずっと…アンタだけを愛してるから。」



「………そっか。」




優しく微笑むもんだから私はつられて笑った。けれど…私はそのまま甘い時間に持ち込まれるほど子供ではないのだ。




「じゃぁ私の事が大好きなシュウ君はおあずけ位出来るよね?」



「は…?ちょ、…おい。」



絡められた指をほどいてそのまま再び液晶画面に向かいまたカタカタと無機質な音を奏で始める。後ろから不満の声が聞こえるけれどもう無視だ。



「花子、おい、花子って…」



「うるさい、コレ締切明日なの。あ、やばいもう後数時間だ…」




カタカタ…ガタタタタタタっ!
ラストスパートと言わんばかりにキーボードをはじく指を早める。ぎゅううう〜腰を締め付ける腕に更に力に入る。




「なぁ、花子…花子…んんっ」




いい加減背後の口やかましいシュウにイラついたので一瞬、首を彼に向けてその唇を奪ってやった。




「…………」




「よーやく静かになった。そのままね、ステイ。」




「………わん。」




何かを諦めたかのように小さく犬の鳴き声をしたシュウはおとなしく私の肩に顔を埋めた。そんな素直な仕草に思わず笑ってしまった。




「もう俺…花子の会社潰そうかな。…構ってくれないし。」




「おいまてふざけんな。」



「…だって。」



ぶすーっとふくれっ面なシュウに軽くデコピンを食らわして
小さくため息をついた。



「大人の事情ってーのもわかってくださーい。」



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