放棄女と仮面紳士


「うーんだるい、眠い。」



「貴女と言う人はまたそのような事を…」




執事ぶった仮面紳士が小さなため息を零す。
そんな彼を横目に見ながら瞳を閉じる。



「目、開けるのめんどくさい、息するのめんどくさい、動くのめんどくさい
ていうか生きるのがめんどくさい」



「はいはい、わかりましたよ。ホラ、口を開けて…」




「ん」




言われるがままに口を小さく開ければ放り込まれる彼お手製の食事。
うん、味は悪くない。
暫くその単調な作業が進んだと思えば少し間を置きひょいと私の体を持ち上げ浴槽へと運ぶ。
慣れた手つきで洋服を脱がせ、同じく慣れた手つきで体を洗ってくる。




「何処かくすぐったいところは?」


「んー…」



「こら、入浴中に寝ないでください。」




軽く小突かれて小さく唸るとくすくすと後ろから微笑む声がバスルームに響く。




「んむ…んー…」



「おや、もう眠いのですか?」



「ん…」



あの後綺麗に体をふかれてパジャマに着替えさせられて再びベッドに運ばれる。
ふわふわする感覚に目はうつろになってゆく。
ぼやける視界に写るのは優しげに微笑んでいる彼の表情。



「ねぇ、レイジ…」



「なんでしょう」



「どうして私なんかに構うの…」



うつらうつらした意識の中そう問うてみる。
こうして生きることを放棄した私を無理に生かしてどうしたいのだろうか彼は。



「貴女の血が極上だからですよ」



「…うそつきね。」



美味しい血ならばあの子の方が美味に決まってるのに。なのに彼はどうしてか甲斐甲斐しくも私の世話をする。私を生かしていて彼に何の得があるというのだろうか



「そうですね、何か理由がいるのでしたら…」



ちゅっと小さく手の甲にキスをされて
ぎらついた瞳でこちらを覗き込む。




「貴女を愛していると、言う事でしょうか」



「愛…とか、」



下らない理由だな…ホント
私はその答えを鼻で笑い、僅かに入っていた全身の力を抜くすると私の体はいつもたやすくベッドのシーツに埋もれる。




「ええ、愛ですよ…花子」



愛おしげに頬を撫でる姿はとても優しい。
心地よくてそのまま瞳を閉じると降って来たのは優しいキス



「ん、レイ…ジ」



名前を呼ぶと冷たい手が私の手を絡め取る。
ああ、この態勢は寝かせてくれない状況だ。



「眠い、だるい…でも…」



「ん、花子…んん…」



空いている手で彼の頭を掴んで引き寄せて
何度も何度も深く自ら口付ける。



「だるいけれど…相手をしてあげる」




無表情でそう告げると満足そうに微笑んだ彼は勢いよく私の首筋に噛み付いた。
嗚呼、この痛みさえも心地いいだなんて
私はいつからマゾヒストになったのだろうか




「飼い殺しも悪くないなぁ」




ぼんやりとそう呟けば
私の血を啜りながら彼は喉を鳴らし嗤った



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