文字の愛


「ねぇねぇユーマ君、ユーマ君。今日は何の日でしょーか!?」




「………………ラブレターの日」





「正解!」




そわそわとした私の言葉に心なしかやつれたようなげんなりした表情の彼氏が消え入るような声でそう答えてくれたので嬉しくなって勢いよく抱き着いた。
嗚呼、よかった!!前日から目が合うたびに今日はラブレターの日だよって喚いたかいがあったよ!!
…………別にそのせいでユーマ君が若干ノイローゼ気味なんてそんなことあるはずがない人間って都合のいい生き物だからそこは敢えてスルーだ。




「で、んだよ花子…昨日からぶひぶひとラブレターラブレターって刷り込みやがって…何が目的だよ」



「ぶひぶひは言ってないよ!?ていうかこれだけアピールして全然気付いてもらえてなかった私の本心!!」




ぎゅうぎゅうと抱き着いていればながーい溜息の後優しく抱き締め返してくれた彼からそんな言葉を貰っちゃって
さっきまでゴキゲンだったのに私の言いたいことが全く伝わってなかったんだと一気にしょんぼりしてしまう。
ううん、やっぱり回りくどい言い回しじゃなくてユーマ君にははっきり伝えとけばよかったかも……




直接言うのはちょっぴり恥ずかしかったので敢えて本題に触れなかった数時間前の自分に少し後悔しながらも
気を取り直して彼の腕の中でキリリと表情を引き締めて覚悟を決める。
だってもう私の右手には実は彼に捧げる贈り物があるんだもの。




「あのね、今日…ラブレターの日だから……ユーマ君とラブレター交換したいなって…ホラ」




「…………へぇ?俺の雌豚は随分乙女っちくな事を言ってくれるじゃねぇか。」




そっと目の前に差し出した彼宛てのラブレター
本がトレードマークの博識な彼のお兄ちゃんにこの日を教えられてからずっとやってみたいなーって思ってた。
いつも体や言葉で「すき」も「愛してる」も貰ってるけれど、「文字」でもユーマ君からの愛情が欲しくて……



私の言葉にニヤニヤと笑ってるユーマ君をじっと見つめてお願いと視線でオネダリ
けれど彼は困ったようにガシガシと頭を掻いてちょっぴり悲しい言葉を紡ぐ。




「あー…でもよ。俺そう言うの苦手なんだわ……文章ってのめんどくせぇ」



「う……ん、そう…だよね」




私の手からひょいっとラブレターを受け取るだけは受け取ってくれたけれど
自分は手紙を書くのが苦手だと言う彼に苦笑してしまう…ううん、そうだよね…ユーマ君が可愛い便箋に長々と愛の言葉を書くってちょっと似合わないかも…



やっぱりこのお願いは少し自分本位だったかなって思い直して、けれど自分の想いの籠ったソレは受け取ってもらえたんだからこれはこれでいいやって思ってれば目の前に差し出された何処かのスーパーの大安売りのチラシ。



「?ユーマく、」



「だからこれで勘弁しろよ雌豚……んじゃ、俺はこれ読んでくるからな」




セール品をルキ君にでも頼まれたのかと思いそれを声に出そうとしたけれど
それは彼の言葉にさえぎられ不発となってしまった…けれどそれより気になる彼の台詞の意図を問おうとしたけれど
ユーマ君はちょっぴり意地悪に笑って私を解放して自室へと向かってしまった。




……残されたのは最愛からラブレターを貰い損ねた私と特売チラシ




「……………?なんだろ……おつかい、行ってきた方がいいのか……な、」




彼の行動がよくわからなくて
取りあえずこのチラシの中の何かを買ってきた方がいいのかと何気なく…本当に何気なくその裏を見た瞬間に固まる私の思考と動き。
え、まって……これは駄目。駄目だよユーマ君。




「わ、わぁぁぁぁぁあ!!!!!」



「っるせぇぞ花子!!俺は今花子のラブレターに感激してるとこなんだ黙ってろ!!!」




数秒の沈黙の後思わず出た今世紀最大の大絶叫に部屋の方から少し涙声のユーマ君の怒鳴りが聞こえたけれど
今は彼が私のラブレターにめちゃくちゃ喜んでくれている事にはしゃげる余裕なんてない。
どうしよう…どうしようどうしようどうしよう!!!




「ユーマ君だいすきいいいいい!!!!」



二度目の絶叫と共に沢山あふれる感激の涙。
チラシの裏にはとんでもなく乱暴で大きな文字





『花子さんへ





だいすきです





ユーマ』





「ゆ、ゆ、ユーマ君文章だとちょっぴり礼儀正しい可愛いいいいいい!!!!」



「うるせぇッつってんだろ!!!!俺は今感涙中だ!!!ちっとは黙れ雌豚花子!!!!」




チラシの裏に乱暴なラブレターとも言い難い彼なりのラブレター




私の言いたいことを分かってくれてた事と
苦手って言いながらも一生懸命書いてくれた事と
照れ隠しにこんなチラシに書いちゃった彼の可愛さと…



色んな事実とそれに伴う感情が溢れ返って涙が止まらない。




嗚呼、もう!
こうやって彼なりに私の我儘をどうにか形にしてくれるユーマ君が愛しくて仕方がない。




どうやらこのどこにでもあるチラシは
私の大切な大切な宝物になってしまうようだ。





(「おい花子、今日のチラシ見なかったか?」)



(「だ、駄目!このチラシは私の宝物なの!!ルキ君にはぜーったいあげないんだからー!!!」)



(「は?」)



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