届かないラブレター


僕のだいすきな花子ちゃんは
結構な乙女っちっくな子だから……うん、こういうのも好きなんじゃないかなって思うんだ。




「ええと?拝啓…ビッチちゃん………って流石に怒っちゃうかなー?んふっ♪」




珍しく真面目に机に向かいご機嫌に微笑みながらの独り言。
机には可愛い便箋と手には万年筆。
全く……僕が大人のオモチャ以外を持つのは珍しいんじゃないの?なんてね…




静かな空間でさらさらと薄っぺらい紙の上に文字を落としていく。
本当はこういうのより直接キミの体にキモチイイ事を刻むこむ方が好きなんだけれど今日くらいは
メルヘンチックな花子ちゃんの思考に合わせてあげる。




「いつもいつも、頼んでもないのに僕の後ろをついてきてくれてありがとう…花子ちゃんのそういう所、嫌いだったよ」





声に出すと同時に落とされる文字…
花子ちゃんは僕が要らないって言ってもめげずにずっと僕だけを見て、僕の後ろばかりついてきた。
酷い事をしたってそれは変わらなくて、いっそ殺してやろうかって何度も何度も考えてたのは記憶に新しい




「そんな君を強いと思っていたけれど……そうじゃなかったね」




何をしても堪えないんだなと思っていたけれど実はそうじゃなくて…
酷い事をされても平気なくせに冗談でも僕が花子ちゃんに「嫌い」って紡ぐといつだってすぐにその瞳からは大きな涙がボロボロと
見てるこっちが情けなくなってしまう位に溢れて零れ落ちていた。
花子ちゃんは僕に「嫌い」って言われるのが何よりも苦手だったんだ…





「花子ちゃんの行動ひとつひとつが、僕を愛してくれてるって……証明してくれてたね」




少しばかり震える僕の声。
それと同時に文字もさっきとは違ってガタガタになり始める。
嗚呼、もう……僕も結構今日はセンチメンタルみたいだ。




「花子……ちゃん、」




ピタリと走らせていた万年筆を止める。
だって見えないんだ……どうしてだか視界が歪んで彼女に捧げるラブレターが見えない。




「う………ぁ、……」




ぱた、ぱたと何かが便箋に落ちる音がした。
それはどう考えて文字ではなくて………今の僕の気持だ。




「なんで………なんでだよ、花子ちゃん」




静かな部屋で独り、愛しい彼女の名を呼ぶけれど
只々虚しく空気に溶けて消えるだけ……
最初は本当に嫌いだった君を愛して、永遠に一緒に居たいと思ってた、のに…




ぱた、ぱた、零れ落ちるのは涙。
最期位君の趣味に合わせて可愛らしい事をしてあげたかったのに
もう僕のラブレターは涙でぐしゃぐしゃで文字も滲んで読めやしない。





「僕を愛してるならどうして置いて逝くのさ……っ!」





長い時間をかけて漸く向き合った僕たちの気持ち
あの時の彼女の幸せそうな表情は今でも忘れない…
そんな顔をさせる事が出来るのは僕だけなんだと思うと、自分の胸も体温がないはずなのに暖かくなった気がして
くすぐったくて一緒につられて微笑んだのに…




実際に永遠を誓おうと思った矢先に彼女の器は壊れて息絶えた





「これなら……君が人間として一生を終えるのを見届けた方が……良かった、のに…っ!」




僕を愛してくれた彼女の身体は特別でも何でもない
本当にただの「餌」のままで……
それに気づいたのは僕も彼女もこうして全てが壊れてしまった後だった。




嗚呼、僕は
本当に僕を愛してくれる人をこの牙で殺してしまったんだ





吸血鬼にとって死は祝祭だと言うけれど
でも……本当に祝祭だとしたらどうしてこんなに胸が苦しくて辛くて
こうやって涙が出るんだろう。





「…………っ、君に天国まで持っていってもらうはずのラブレターさえ書けやしないよ」




もう涙でぐしゃぐしゃになってしまった便箋は何を書いていたのかさえ分からなくて
ぐにゃりと顔を歪めて小さく丸めてゴミ箱へと捨てた。
嗚呼、花子ちゃん……僕は結局君にもらってばかりでこうして最期まで何かを捧げる事が出来ないみたい。





「おいライト、花子への手紙……書けたのかよ」





ひとしきり、涙を流し終えた後普段とは想像もつかない位に遠慮がちに開かれた扉の先に見えた姿に小さく笑って首を振る。
やめてよスバル君…今、そうやって気を使われてしまうと本当に僕は狂ってしまいそうだ。




「やっぱりやーめた!僕ってこういうの柄じゃないしねー…んふっ♪それに覚醒出来なかった花嫁なんてもう用はないよ。さっさと燃やしちゃおう?」




わざとらしくいつもの様に飄々と笑ってその言葉に困惑の表情を表す唯一の弟の隣をすり抜けて部屋の外へ出る。
ごめんね花子ちゃん……君に最期まで優しくできなくてごめんなさい。





彼女の亡骸を使い魔にしてしまえば辛くて苦しいから
「そんな体はいらないと」皆に伝えて焼却処分…
きっと全員が全員僕を本当に酷い生き物だと思っているんだろうな…





「花子ちゃん………ごめんね、愛してる」





バルコニーから昇りゆく煙をぼんやりと眺めて
誰にも知られないようにひとつ、涙を零す。





嗚呼、結局僕の君への想いは一緒に持って逝ってもらう事は出来ず、ゴミ箱の中だ。





このまま僕は独り、君への愛を現世に残したまま
これから終わる事のない、永遠を生きていかなきゃいけない…




もしかしたらこれが
君への愛に中々応える事をしなかった…
異種族をここまで愛してしまった僕への罰なのだろうか





嗚呼、縛られるのは嫌いじゃないけれど…
この呪縛は酷く苦しい、のかもしれない。



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