あつい、暑い、熱い


暑い…まさに今夜は熱帯夜。
そんな絶好の日に私は最愛と部屋で二人きり。




「れ……レイジさん、暑いですよね?」




ドキドキと胸の鼓動を高鳴らせながらそう呟いた私の瞳は期待の色一色だ。
だって今日は熱帯夜。
そんな暑すぎる室温の中で人間である私の体温は急上昇。
そして異種族……体温を持っていないレイジさんの体温は当たり前だけれど低温のまま。




いける……これはいけるぞ花子!!





普段からレイジさんと馬鹿ップルみたいにいちゃつきたくて仕方がないけれど
何事も上品な彼はそれを良しとしてくれない。
だからこうやって暑さを理由にすればきっと……きっとレイジさんも仕方がなしにでも
私を冷やそうと体温の無いその体でぎゅうっと抱き締めてくれるに違いない!!





ススス、と彼との距離を縮めてちょんっと指先だけ触れてみれば
やっぱりレイジさんの指はひんやりしていて心地いい。
ほら、レイジさん!!私!今めっちゃ暑いんですよ!!ほら!!
彼氏なんだから「では私が冷やして差し上げましょう」ってイイ声で言ってそのままギュってしてください!!





そんな事を考えながら期待に満ちた眼差しで彼をじっと見つめていれば
レイジさんはじっと私を見つめ優しく微笑んでくれたので
自身の心臓が今日一番高鳴って心の中のガッツポーズが止まらない。




やった!!
この微笑は私が凄く暑がってるのを察してくれた目だ!!
さぁ来いレイジさん!!滅茶苦茶ぎゅーってしてください!!





「おや、これは私としたことが…………失礼」





「え」





ピッ





優しく微笑んだ彼がスッと手を伸ばしてくれたかと思えば
抱き締めてくれるんだと期待しまくっていた私を通り越して手に取ったのは冷房のリモコン
残酷すぎる電子音が響き渡ったかと思えば数秒後に流れてきてしまうさっきレイジさんの指先に触れた時と同じくらい心地よい冷気…





……………違う。





「違ぁぁぁう!!!そ、そうじゃない!!」




「おや、花子は暑かったのでしょう?ですからこうして…」




「いや、あってるけども!!!違うんですよレイジさん!!!」





一気に涼しくなってしまった部屋で喚き散らせば
くたりと首を傾げて問うてくるレイジさんは何処までも上品で素敵だけれど
違う!!そうじゃない!!!確かに暑かったけれども!!!





「わ、私はこの暑さを利用してレイジさんにぎゅーってしてもらいたかったんですよ!!体温の無い体で直接涼しくですね!!」




「……………花子、またそのようなはしたない事を」




「何がはしたないだ!!!私はただレイジさんとぎゅーってしたいだけなのにー!!!」




レイジさんの予想以上の気遣いっぷりに私の計画もフラグも何も木っ端微塵に破壊されてしまって
駄々っ子の様に床に寝そべり大暴れしていれば吐き出されてしまう呆れ切った溜息と言葉にもはや私だって喧嘩腰。
何がはしたないだ!!!恋人と抱き締め合う位ではしたないってどういうことだよ!!普段もっとエロい事してるじゃないか!!
レイジさんのはしたない基準が分からない!!




じたじたと四肢を暴れさせ目の前の彼氏力より執事力が勝ってフラグをベキベキに折っちゃったレイジさんに文句を垂れ流していれば
不意に自身の上に出来た大きな影にピタリと動きを止める。
え?レイジさん…どうしたんだろ。私に多いかぶさちゃって何する気なんだ?





じっと彼の行動の続きを待っていれば、レイジさんはそのままニッコリと…
それはもう綺麗に、上品に微笑むけれどその綺麗な唇から紡がれる言葉は上品からかけ離れたものだった。





「花子…確かに私は体温なないですが服越しだと貴女を冷やしきれません。……直接肌で触れ合わないと、ね?」




「え?は?ん?」




「まさか花子からそう言ったお誘いを受けるとはね………ええ、ええ…お望みとあらば存分に冷やして差し上げましょう。」




「おいちょっとどの口がさっき私をはしたないと言……っ、待って待って待ってそう言う意味で言ったわけじゃない!!!」





綺麗で上品な笑顔で放たれる爆弾発言にすっかり部屋は冷えたはずなのに私の汗は止まらない。
ぐいぐいと必死に彼の体をどかせようとするけれど
男女の差……種族の差、はたまた両方なのか、私がどれだけ力を入れて頑張っても状況は一向に変わる事はない…
やばい!!私はいちゃいちゃフラグを立てたかっただけなのにいつの間にか何かエロいフラグが立ってしまった!!





もう私に瞳にはさっきの期待の色なんか消えていて
今はもう焦りの色のみだけれど、それもまたレイジさんの言葉と仕草で別の色に変わってしまう。




「ねぇ花子……?自らオネダリしたのでしょう?だったらもう…諦めてしまいなさい」




「…………嗚呼、もう!!!それ反則ですからね!!!」




普段優雅で穏やかな彼が私を抱く時にだけ唯一見せる雄の部分
乱雑に自身のシャツのボタンを取り払いながらコチラを射貫かれてはもはや私に成す術はない




「レイジさん、暑いです……冷やしてください」




「ええ、愛しい貴方の望みですから……ね」





そっと色香を纏った瞳の色で手を伸ばせばそれは優しく取られてしまったけれど
嗚呼、……もうレイジさんに触れられてもちっとも涼しくなんてならない。





だってホラ、
触れられている部分…全て熱くて熱くて仕方がないんだもの。



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