自称ドM


「お……おお、…おお!!」





真夜中午前3時。
私はある雑誌を見つめて震えが止まらない。




「犬好きはSで猫好きはMだと……!?こ、これは皆に確認するしかない!!」




その雑誌は単なるファッション誌。
その中に掲載されてた暇つぶしのウソか誠か定かではない心理テストじみたそんな特集…
どうやらそこに書いてある内容からしてみれば主人に従順な犬を好きなひとは支配欲が強いSで
気紛れ猫ちゃんが好きなひとは相手に振り回されたいMだとか…



別に信じ切ってる訳ではないけれど、これは面白い彼らをからかうネタになると思って
私は一目散に自室から飛び出して今頃リビングでのんびり余暇を過ごしている無神四兄弟の元へ走り出した。
使える…これは使えるぞ!!!皆をおちょくる絶叫のチャンスだ!!




「ルキ君、コウ君、ユーマ君、アズサくうううん!!!」




「どうしたの花子ちゃん?部屋出て大丈夫なの?」




「お前ェテストの成績最悪でルキ特製の問題全部解くまで出てくんなって言われてたろ」




「花子………きっと、おべんきょう………おわったん…だよね?…ふふっ、えらいえらい」




「うん、ごめんねアズサ君閉じ込められて15分であの鬼のような問題解けないかなあんなん誰かとくかあの鬼畜参謀め」





大きな声を上げてリビングに飛び込めば、そこにはやっぱり予想通り無神家の皆がそろってて各々に私の心配や言葉をかけてくれるけれど
ごめんね…私、愚かで無能な人間だからあの吸血鬼って言うかもはや鬼が出した問題なんて5分で諦めて雑誌読んでたよ。




私のそんな元からやる気のない返事に三人は長ーい溜息を付いたけど呆れたように笑って「まぁルキの出す問題は難しすぎるから」とすーぐ許してくれたから私は大満足。




んんん、やっぱり彼らの兄である最愛の私には皆こうして優しいから大好きだ。
まぁ、その最愛本人が私に対して最高に厳しすぎるって言うのはいささか問題だけれど…
そしてそんな最愛本人がこの場に居ない事が気になったが今はそんな事どうでもいい。




「そーれーよーりー…皆ちょっと聞きたいんだけど!!!犬と猫、どっちが好き!?」




可愛い可愛い最愛をちょーっとテストの点数低かったからって部屋に軟禁して鬼のような問題押し付けたルキ君の行方より
今は彼らがSかMなのかが気になる…まぁ、普段の言動から彼らは間違いなくドS何だけども
それはそれ、これはこれである。ルキ君に無理矢理監禁されたストレスをちょっとでも晴らしたい




「んー?俺はやっぱり猫!!だーって皆の事エム猫ちゃんって言う位だから!!」



「マジか!!!!コウ君マジか!!!!」



「え?何がマジかなの花子ちゃん」




初めに口を開いたコウ君の答えに私の驚愕は止まらない。
あんな自分の気に喰わない事怒ったらすーぐ口悪くキレるクセに…その所謂エム猫ちゃんにもベッドであんな事やこんな事をしてるであろうコウ君が猫好き……即ちM!




結果の内容を一人知っている私は今すぐにでもネタバラシしてからかってやりたいけどまだユーマ君とアズサ君のを聞いてない…
皆のを聞いてからネタバラシしてやろうとそわそわしながら他の人の言葉をじっと待つだけだ




「あー…俺も猫だな。あいつら柔らけぇしな…」




「ぶほっ!!!」




続けて口を開いた野生児の言葉に不覚にも思いっきり吹き出してしまう
く……くそう!そ、そんないかつい外見しといてドMなのユーマ君!!
いや、雑誌にはドMだとは書いてなかった…Mしか書いてなかったけど私はさっきも言ったけど愚かな人間なので
こういう面白いネタは大げさに脳内変換されてしまう生き物なのだ。




「アズ……アズサ君は?」



「俺………?俺は……えっと…………犬。……お手とか、かわいい」




「まじか。まじなのかアズサ君すごいねアズサ君」




必死に笑いを堪えながら最後の末っ子にもう一度問えば意外過ぎる答えに私の真顔が止まらない。
このパターンならアズサ君も猫って答えて無神家全員ドMじゃんってからかってやろうって思ったのに
とっても優しくて暖かな笑顔で答えちゃうアズサ君はまさかの犬派。生粋のドS……無神のダークホース此処にありって奴だ…




「ていうかそれがどうしたのさ花子ちゃん」



「あ、ああ…ごめんね?アズサ君の答えに戦慄しちゃってた……えっとねぇ実はこれで…」





さっきから驚きや爆笑、真顔…様々な表情を一人でころころ変えてれば
コウ君が質問の意図が分からないと首を傾げてしまったのでそろそろネタバラシをして盛大に三人をからかってやろうと言葉を紡ごうとしたその時…






ぽん、と
私の肩に何か冷たくて大きな手が触れたような気がした






「花子、因みに俺は猫が好きだ」




「………………皆、待って待って待って後ずさりしないで私を置いて行かないでお願いだから」





ぽんと置かれた手
聞き覚えのありすぎる声






そしてその手の持ち主を見た三人の弟達が顔面蒼白して一気に壁際まで後ずさりをしたけれど私はそんな彼らを一緒に壁際まで逃げれない。
だって今、私の右肩を乗っている手が凄い強い力で掴んで離してくれないからだ





「俺は昔から猫が好きでな……」




「!そそそそそそそそそそうなんだそれはよかったね」





震えが止まらない私の前に出されたのはさっきまで部屋で読んでいた雑誌
ヤバイ…彼には私が皆に猫か犬かどっちが好きかを聞いた理由も全部ばれている!!!




ガタガタとひっきりなしに震えていればその聞き覚えのありすぎる声は耳元で
猫好きであるとんでもない理由を頼んでも無いのに明かしてくれて私はもう絶体絶命





「あの気紛れな家畜をこの手で徹底的に調教するのが好きなんだ……嗚呼、今夢中なのは俺の言いつけを15分も聞けずこうして好き勝手している愚かすぎる猫の躾だな」




「そ、そんな恐ろしい理由で猫好きなんかMだって言えない!!!ごめんなさいルキ君だってあんな問題解けるはずがない!!!」




「喧しい。頑張っていると思って紅茶でも差し入れてやろうと思って部屋に行けば無人でリビングで弟達と遊んで……これは調教のし甲斐がある猫だ」




「ね、猫!!!私猫じゃないもん!!!ホントごめんってルキ君マジ許して!!!」




ずるずるとそのまま聞き覚えのありすぎる声の主……此処に唯一いなかった無神家のひとり…最愛のルキ君によって我儘な子供を連れて行くように引きずられれ必死に抵抗するも非力で可憐な私には成す術がない。




最後の頼みだと壁際で怯えきってる弟達に助けを求める視線を向けるもぶんぶんと顔を横にふられてジ・エンド。
待って待って待ってそんな今怖い顔してるのルキ君!皆涙目じゃん!!やだ、いつもなら愛しい顔を見たくて仕方ないのに今は死んでも見たくない。





「い、いやだぁぁぁ!!!調教とか躾とか!!ただめんどくさい問題サボっただけじゃんルキ君の鬼!!!ドエス!!!」




「何を言ってるんだ花子………俺は猫好きだから花子の言うMだろう?」




「くっそ!!!サボっただけじゃなくて自分を抜いてみんなと遊んでた事にも嫉妬してるな!?やだ!こんなMいて溜まるかぁぁぁ!!!」





そんな私の可哀想すぎる断末魔を最後にその日、無神家は静寂に包まれた。





後日、どうしてか必死に犬好きをアピールしまくるコウ君とユーマ君がいたりいなかったり…
そして、可愛い可愛い花子ちゃんはもう二度と雑誌の不用意なコーナーにテンション上がってルキ君の言いつけを破らないような従順な猫になったりならなかったり…





私はあんな恐ろしすぎる自称猫好き…ドMを未だかつて見たことがない。



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