タネも仕掛けもございます


タネも仕掛けもございます。
君を幸せにさせるために僕はいつでも必死。





「ライト君!!」



「んふっ、ごめん…待った?花子ちゃん」




「んーん!今来たところだよ!!」





お昼間に最愛の花子ちゃんとデート
ちょっとだけわざと遅れて登場した僕にとっても嬉しそうな笑顔を向けてくれる君に思わず胸が締め付けられそうになる。




幾ら吸血鬼だろうが太陽は効かないと言っても
普段は僕らは夜行性…こんな太陽が昇りきった時間に外を歩くなんて考えられないけれど
それでもこうしてこの時間にデートって、実はこっそり人間の君の生活リズムを合わせてるからなんだ。



だからいつも花子ちゃんとのデートの次の日僕は寝不足で学校でも屋敷でもシュウみたいにうとうと全てにおいて上の空
それでもこうして合わせてるのはどうしてだか…君は分かってくれてるかなぁ?





「今日は何処に行きたいのかな〜?んふっ♪」



「えっとね、えっとね……水族館!期間限定でクラゲ館やってるみたいで……ほらっ」




「!?」




控えめに僕の手を取ってきゅっと繋いでくれちゃう可愛い花子ちゃんに表情が緩みっぱなしだったのに
彼女の口から出た本日のデートスポットに思わずビシリと一瞬体をこわばらせてしまった。
水族館……僕の大嫌いな魚がうようよいる場所だ…




「そ……そっかぁ……ん、いいんじゃない?ん、んふ…っ」



「!ありがとう!!えへへ…今日もデートきっと楽しいねっ!」





いつもの調子ならそんな所に行きたいって言われた瞬間にデートなんかキャンセル
他のビッチちゃんとホテルでキモチイイ事しちゃおうって言っちゃうのに彼女相手ならこのありさま。
大丈夫、大丈夫……花子ちゃんはくらげを見に行きたいだけ…べ、別に魚なんか全部スルーしてくらげ館一直線そうに違いないよ頑張れ逆巻ライト!





楽しそうに軽い足取りな彼女とは裏腹に
彼女を喜ばせたいと言う心とは真逆の魚が沢山いる場所なんて死んでも嫌だと体が本能的に叫んでる僕の足はずるずると往生際悪く引きずりながらもそんな花子ちゃんに引っ張られて魔の魚の巣窟へと向かってしまう。




嗚呼、絶対居ないと思うと言うかいた所で大嫌いだけど神様…今日だけは僕を守ってくれてもいいと思うんだけど。
そんな普段は絶対に縋らない神様とやらに都合のいい考えを胸に抱き、僕達はお昼間の水族館デートへと足を向けたのだ。







「ご……ごめんねライト君。まさかあそこまで魚嫌いだなんて思ってなくて……」



「いいんだよ花子ちゃん……でもごめんねもうちょっとこのままでいさせてね」




水族館に入って30分……きっともっとくらげや魚達を鑑賞したかったはずの花子ちゃんの背中には震えが止まらない僕。
ぎゅうぎゅうと後ろから抱き締めちゃってるこの様子はお化け屋敷から出てきたバカップルそのものだけど
彼女役は今紛れもないこの僕だ。




「そんなに魚嫌いなら言ってくれれば水族館…やめたのに」




「それは僕の選択肢になかったなぁ……んふっ」




ガタガタと未だに震えながら花子ちゃんにぎゅうぎゅうと抱き着いていれば手を伸ばして優しく頭を撫でてくれる彼女に少しばかり体の力が抜けて漸く落ち着きを取り戻す。
君に魚が苦手って伝えて楽しそうなその笑顔を曇らせるって選択しなんて本当に僕にはなかった。
結局30分しか我慢できなかったけれど苦手な魚も頑張って一緒に見ようって思ったの…どうしてかわかる?




「花子ちゃん、僕と一緒に居て楽しい?」



「?うん!楽しいよ!!ライト君はいつも私の事、楽しませてくれる…だいすき」




「そっか……んふっ、」





漸く落ち着いて再び君の隣に並んで手を繋いでちょっとした質問…と言うか確認。
じっと顔を覗き込んでみれば君はとっても幸せそうに笑ってくれるから僕も表情が綻んでしまう。




僕が夜行性なのに君の生活リズムに合わせるのも
苦手なものがうようよいる所に我慢して一緒に行こうとするのも
いつもなら絶対にしない……嫌な事やしんどい事はぜーんぶ放棄してきたのに
どうしてここまで頑張っているか君は分かってる?





「嗚呼、そうだ花子ちゃん……これあげる」



「?わ……わぁ!キレイ…!」




あれから暫く花子ちゃんと一緒にショッピングやお茶会を楽しんで
周りはすっかり日が沈んでしまって……
僕がこうして女の子と一緒にいて一度もホテルや路地裏に連れ込んでいないのをレイジや他の奴らが見たらきっとおかしいって僕を病院へ連れて行くんだろうな。




そんな事を考えながらも彼女の手に先程の恐怖の魚屋敷もとい…水族館のお土産コーナーで
震えながらも頑張って買ってきたものを置いてあげる。
すると彼女の目はとても嬉しそうに輝くから、嗚呼今すぐ食べちゃいたいって思うけれど我慢我慢。




「魚は苦手だから、これで我慢してね?んふっ」



「うん!我慢だなんて…すっごく嬉しい…大切にするね!」



彼女の手には可愛いくらげのストラップ。
本当は水族館行くくらいだし魚、好きなんだろうけどいつもそんなの身に付けられたら僕が毎日卒倒しちゃうからこれが最大限の譲歩だ。
嬉しそうに笑みを浮かべて「ライト君は本当に私の嬉しい事ばかりしてくれる」と喜ぶ彼女を見つめてくしゃりと表情を崩してしまった。





お昼に行動するのも
嫌いな場所に行くのも
すぐに厭らしい場所に連れこなまいのも
こうして健気に贈り物しちゃうのも






全部全部君が好きだから






「全く……恋って吸血鬼も変えちゃうんだね…怖い怖い」




「?ライト君?何か言った?」



「ううん、何でもないよ。んふっ♪」





僕がこんなにこっそり頑張っているのは全部君が好きだから。
こんなに一人のビッチちゃんに対して必死になるなんて思わなかった。





面倒な事は全部放棄して
自分のキモチイイ事ばかりを貪っていた僕がこんなのありえない。





「ライト君は本当に魔法使いみたい…私の楽しい事、何でも知ってる。してくれる…私も応えたいなぁ」





幸せそうに微笑む君の言葉に胸の内でこっそり呟く
僕は魔法使いなんかじゃない。
君を喜ばせるために、必死に頑張ったりしてるんだ…
タネも仕掛けもありまくり。
僕は魔法使いと言うよりもきっとマジシャンなんだろう。





それよりも…





「僕は君の方が魔法使いに思えるけどね」




必死にらしくない頑張りをした後
こうして幸せそうに笑うその表情……
無条件に僕の心って奴を満たして「しあわせ」って気持ちにさせてしまう。




その表情見たさに僕を此処まで変えてしまった君の方が
きっと魔法使いだ。





タネも仕掛けもございます。
僕はいつだって君を幸せにさせたくて必死です。



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