甘いお菓子


貴方が好き




だいすき





私、カナト君が大好き




けれどそれを言葉にしてしまったら
もう止まらなくなりそうで……
私はいつだってそんな甘い言葉を出さないように、そっと唇を縫い付けた





「花子さん?ホラ、僕の事を好きって言って?」




「………」




優しい声色で私の名前を紡いでそっと頬に触れる愛しい右手
けれど私はその言葉に何度も何度も首を横に振る。




だって怖いんだ…
目の前の愛しい彼……カナト君を好きって言葉にして私の中からこの気持ちを出してしまったら
もう何もかも止まらなくなってしまいそうで…




「花子さん、……もう僕は知っているんですよ。君が僕の事をだーいすきって」




「カナトく………でも、」



「ほら、いいこだから」




何度も何度も頬を撫でる冷たい手
そして私の中から「すき」を引き摺り出そうとする甘い声…
困惑の表情を浮かべて尚も拒否をしているとその声はますます甘くなって私から抵抗の意思を削ぎ落としていく
嗚呼、やめて…だってこんな言葉……口に出してしまったら





けれど





目の前のカナト君の大きな瞳が余りにも優しく思えて
ぽろり
気が付けば私の口からふたつの言葉が零れて落ちた






「すき」




「うん」




「カナト君、すき……だいすき」




「うん…」




「だいすき、なの…っ」





予想していた通り一度言葉を零してしまうと次々と
同じ言葉と、それに乗せて感情がとめどなく溢れて止まらない
昂り続ける気持ちが抑えきれずに気が付けばボロボロとだらしなく涙を零して
ひっきりなしに目の前の彼に「すき」だと訴え続ける。




嗚呼、ほら…だから言いたくなかった



今までこうなってしまうって分かっていたから抑え続けた感情も言葉も
ダムが決壊したように溢れて流れ続けて止まらない




ひたすらに声を、身体を震わせ、涙を零し続け
好きだと訴え続ける私を見てカナト君の大きな瞳はとても満足そうに細められ
ふわりと私の身体を抱き締めてくれた



「僕はね?甘いものが大好きなんです」



「カナト君……カナトく」




「ずっと探してました……強烈に甘い…甘くておいしいお菓子……それをようやく見つけたんだ」




何度も何度も彼の名を呼び
合間合間に「すき」と紡ぎ続ける私の唇に落ちたのは紛れもない同じく彼の唇で…
そっと離されればカナト君はとても嬉しそうに微笑んでコチラを見つめていた




「それはね?君の…花子さんの僕への愛の言葉……嗚呼、やっぱり本当に甘くて甘くてたまりません」




「カナ、」




「ねぇ花子さん……もっと、もっと僕を好きだって言って?ホラ、全部君のだいすきな僕が食べてあげるから」




何度も何度も頬を撫でられ、そうせがまれてしまっては自分がまるで暗示をかけられたかのように
素直に言葉を紡ぐ…すき、だいすき、あいしてる
一度堰を切ってしまった感情も言葉も止まる事はなく、ポロポロと零れる度に
文字通り愛しのカナト君の唇によって食べられてしまう




カナト君が私の気持を食べてくれている…
嗚呼、なんていとおしい




「カナト君…あいしてる、あいしてるの……」



「嗚呼、どうしよう…君の甘い愛を食べていたら僕まで中が甘くなりそうです」




紡いでは食べ、紡いでは食べを繰り返し
それをひたすらに続けていれば呟かれた彼の言葉に私は確信する
きっとカナト君は私の気持を食べすぎて、お腹いっぱいになっちゃっているんだ…
嗚呼、ならもしかしたらもうすぐ……




止まらなくなった言葉を紡ぎながら至る考えを
ぼんやりと巡らせていればそれを目の前の彼は私を愛おし気な瞳で見つめながら代弁してくれた





「今度は僕から甘いお菓子が出てきそう」





瞬間、今度は私からそっと彼の唇にキスをして甘いお菓子を催促した
ねぇカナト君、もうきっとカナト君のおなかも体全体も私の好きでいっぱいでしょう?
これだけたくさん食べたんだもの……そろそろ収まりきらなくなってカナト君の唇からも零れ落ちてくれるんじゃないかな……




静かに…そっと離せばぽつり




彼の口から零れ落ちた極上のお菓子に
私は心底嬉しいと涙を零しながら噛み付いた




甘いお菓子を食べ続ければ
自身からも出てきてしまうなんて
それって何だかとても恐ろしくて、それでいて





それでいて、酷く私は幸せだと





私の愛が感染してしまった最愛を見つめ
小さく微笑んで今度は自身が彼から出るお菓子をそっと啄んだ



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