今日もすきでした


俺は自分から話すのはあまり好きじゃない
同時に煩いのも好きじゃない…




けれど





けれど、何故か
花子の言葉だけは酷く耳に心地よくて
もっともっと、と聴きたくなるのだ





「花子、今日は何があった?」




「ええとね、ええとね」




今日も今日とてベッドの上
花子を後ろからぎゅうと抱き締めて彼女に起こった今日の出来事を問いかける…
すると腕の中の彼女はいつものように嬉しそうに微笑みを浮かべて素直に言葉を紡ぎ始める






これが俺と花子の恒例行事
いつの間にか習慣となってしまったけれど
きっかけは多分俺が余りにも無口で話さないから沈黙に耐えかねた彼女が切り出したものだろう…
もう、随分とこうしているから詳しくは忘れてしまったけれど






耳に入ってくる内容は酷くありきたりで下らないものばかり
けれど一生懸命に俺に言葉を紡ぐ彼女が愛おしくてこの真夜中の何気ない時間が楽しみで仕方ない。





「へぇ?学校で俺を見かけて嬉しくて階段から転びそうになったって……何してるんだ、ったく」




「だってシュウさんとは学年が違うからああして学校で会えるのって新鮮で……見とれてたら足踏み外しそうになって」




「屋敷ではこうしてべったりなのにそう言うもんなの……?よく分からないな」




友人と食べた菓子が美味しかったとか
帰ってきたテストが前よりも成績が上がってたとか
……俺を見かけて嬉しかったとか
本当にありきたりで下らない






けれどその言葉を紡ぐ花子の一声一声が言葉の一つ一つが
酷く心地よくて愛おしくて……クラシックを聴いている時よりも穏やかな気分になるのはどうしてなのだろう





「花子、花子……他には?今日他には何があった?」




「んーと、もうないです………」




「ふーん、なら最後にいつもの…言って?」





こうして彼女に起こった出来事を愛しい声色で堪能して
そっと手を取り指を絡めてもっとと懇願してもどうやら今日はこれで打ち止めの様だ
俺のオネダリにもうネタギレですと苦笑するその表情も柔らかくて嫌いじゃない。




ちゅっと絡め取った指先に唇を落とし
これも毎日恒例となっているネタギレあの後の締めの言葉





花子の声はどれも聴き心地がよくて愛しいけれど
こうして最後に紡がれる言葉はこの世界中の何よりも更に愛おしい





ぽふっと彼女を抱き締めたままベッドへと身体を倒して
俺の上に乗っている状態の彼女を見つめれば、いつもの様にほんのり頬を赤く染めてこう囁いてくれる






「シュウさん、シュウさん…今日もだいすきでした」




「ん、」






今日起きた出来事の最後はいつだってこの言葉……
いつだって花子が俺を好きなのは知っているけれど、こうして全ての出来事を語り尽した後に言葉として紡がれるのはなんともいい気分だ。





今日も花子は俺を好きだったと、
そう報告を受けるとだらしなくも表情が緩んでしまう自分に思わず苦笑してしまう。




「シュウさん、シュウさんは?シュウさんは今日何かありました?」




「俺?そうだな……」




ぎゅうとそのままもう一度俺に抱きしめられた花子がじっとこちらを見つめて珍しく問うてくるから思わず一思案
普段なら自分から話すとか怠くて仕方ないから無視するんだが
たまにはいつも貰ってばかりなコイツに言葉を紡いでやるのも悪くない。




そっと回答に期待を膨らませている彼女の唇を塞いで俺も珍しく今日の報告
嗚呼、こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのに





「今日も花子が好きだった」





小さく笑ってそう紡げば
俺の好きなその声は「嬉しい」と言葉を紡いで
俺の愛しいその唇は俺のそれをお返しと言わんばかりにそっと塞いで幸せそうに弧を描いた








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