手に入れた奇跡


「レイジさん」




貴方が紡ぐ自身の名……
それは酷く心地よくて愛しく感じる




いつだって振り向いてほしい人に見てもらえなかった哀れな吸血鬼
どれだけ背伸びをしても、努力してもそんなものは誰も見てくれない
いつだって私が欲しい視線や愛情、期待も全て…全て元々生まれながらに全てを持ち合わせている者へと注がれる。




私はいつだってそんな彼の影で小さく
寂し気に笑うだけだった





「レイジさん、レイジさんどうしたんですか?ぼーっとして…今日は折角の誕生日なのに」




「あ、嗚呼……私としたことが申し訳ない。花子に名前を呼ばれたので少し感傷に浸っておりました。」




「え、何それ私が普段呼んでないみたいな……割と数秒に一回はレイジさんって言ってる気しかないのに」




「ええ、ええ、そうですね…その通りです。ですから貴女、弟達に“レイジの狗”と言われているのですよ?」




「なにそれ本望」




不意に彼女に出会うまでの自身を思い返していれば
呑気な声色でぐいぐいと平和ボケした現実世界へと引き戻した目の前の最愛に思わず目を細めてしまう。
目の前には愛しい最愛、そして私の腕と比べれば遥かに劣る不格好すぎる小さなバースデーケーキと小さなプレゼントがひとつ。
昔の私からは全く考えられないこんな穏やかで平和すぎる世界…きっとこんな所、他の兄弟から見たら「不似合いだ」と笑ってしまうのだろう。





「花子……貴女私の狗と呼ばれて不満ではないのですか?」




「不満な訳ないですよね、私レイジさんが大好きだしレイジさんしか見えてないし寧ろその渾名、私にピッタリかなって」




「そ……そうですか、」




先程の私の言葉に何故か嬉しそうに微笑む彼女に問うてみれば
何ともまぁ従順すぎる返答が返ってきてしまい、からかうつもりだった私の方が言葉に詰まる




確かに花子は言葉通り私しか見ていない
今日の誕生日も数日前から私に頼み込んであけておいてくれと懇願するし
キッチンだってずっと占領して必死にこの不格好なケーキを作ってくれた。
以前ならこんなケーキ、食べる気にもなれないと相手の目の前で捨てていたのだろうがそうしないのは彼女が「私の為に」必死に頑張って作ってくれたと言うのを知っているから。




いつだって欲しいものを手に入れるのは私ではなく憎くて仕方がない兄で
私もそろそろそれが当然だと諦めていた時にこの猛信者は現れた。
彼女は今まで私が手に入れる事が出来なかった分を取り戻す…いや、それ以上の愛を私に無遠慮に注ぎ込み続けて今に至る
もうきっと私の器には入りきらないと言うのに彼女はそんなのお構いなしで今日と言う日もこうして全力で愛を込めて祝ってくれるのだ




「レイジさん、レイジさん…手を出してください」




「?」




そんな私を愛してやまない彼女に促され、言われるがままに手を差し出せば
そっと乗せられた先程まで目の前にあった小さなプレゼントの小箱。
……誰かにこうして贈り物をもらうのは何百年ぶりだろう……きっとあの懐中時計を父上に頂いた時以来だ。




ふとそんな事を思い起こしながらも乗せられた小さな箱をそっと開けば
中から現れたのは真っ青な薔薇……




「花子……これは、」




「青い薔薇には“奇跡”って花言葉があるんですよね?前レイジさんが教えてくれたから…」




「え、ええ……そうですね」




箱から現れた青薔薇と彼女を交互に見つめていれば
花子の口から紡がれたその言葉に只単調に相槌を打つしか出来ない…
まさか、そんなずっと以前の何気ない話を覚えていただなんて思ってもいなかったので少し私も動揺しているようだ




けれどそんな固まってしまっている私に構わず彼女はふにゃりと嬉しそうに微笑んでその青薔薇をじっと見つめて
続きの言葉を口にした。





「レイジさんに出会えたことも愛せた事も愛されたとこも…こうしてそんな貴方と幸せな時間を過ごせるのも私にとってはとんでもない奇跡だから……これからもずっと続きますようにって」




「花子、」




「嗚呼、でもこれじゃレイジさんの誕生日なのに私の御願い事ですね…うへへ、うっかりうっかり」





「全く…貴女と言う人は………そうですね、これでは私が花子に奇跡と言う贈り物をせがまれているようだ」





間の抜けた表情な彼女の額をわざとらしく溜息を付いてピンっと弾けば妙な声を上げてしまう花子に思わず小さく吹き出してしまう。
奇跡……そうかもしれない。
誰も見向きもしなかった私だけを見つめ、必死に愛を注ぐ貴女のような存在に出会えたこの事実は紛れもない奇跡と言うのだろう



今日、すれ違いざまに全てを持っている筈のあの男にぽつりと「レイジが羨ましい」と言葉を落とされた。
きっとそれは全てを持っていても尚、唯一無二は未だに手に入れていない事を指しているのだろう…




その時、初めて
私は全てを持つよりこうしたただ一つを持つという事がどれほどの事なのかを知った





そっとその小さな箱の中の青薔薇を抱き締め、表情を緩める
きっと今の私の顔はどのだらしない生き物よりも緩んでしまっているのだろう





だって今……これほどにない位幸せを感じているのだ
仕方ないじゃないか……





「ありがとうございます、花子………大切にします」




「え、私のお願いを?」




「……………貴女、少しは空気を読みなさい」





貴女にとって私に出会えた事が、愛し愛された事が奇跡なら
それは同じく私にも言える事……
求めた事ろで、努力した所で得る事の出来ない唯一無二の愛を今こうして私は手のうちに抱いている





今まで欲しいものはどれだけ努力しようが何をしようが何も手に入らなかった




けれど今、





「レイジさん、レイジさん!ケーキ、ケーキも食べてください、私頑張ったんですよ!」




「頑張った割にはとんでもなく不格好ですが……まぁこのようなケーキを私に食べさえようとする度胸は称賛しましょう口に運びなさい」




「素直じゃない!!!あ、でもあーんする許可くれた!!嬉しい!!」




今、こうして手に入れているのは本当に欲しかったもの
全てを持っていても尚、あの男が手に入れることが出来なかったもの
嗚呼、どうしてか…今まで憎いと感じていた彼にもいつかこうした相手が現れればよいと思ってしまえる…




「花子、貴女は本当にすごい人だ」




そっと口に運ばれた大味のケーキを頬張りながらもぽつりと零したその言葉。




貴女に愛され、愛して……
私はきっと何かが変わったのだ。




嗚呼、今は世界の全てが穏やかに見えて仕方がない。
きっとこれが誰かを愛し、愛されると言う事なのだろう。





胸に抱いた青薔薇……きっと本体はいつか枯れてしまうのだろうが
この華に込められた真意は永遠なのだろうと
そんな自惚れた考えさえも浮かんできてしまい、もうどうしようもない。





これから先も、貴女と愛し合うと言う「奇跡」を続けていきたいと
心からそう願わずにはいられないのだ



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