さよなら社畜、こんにちは家畜


今日元気に残業お疲れ様です、
そしていつだって帰宅したら風呂入ってすぐまた持ち帰った仕事こなして
朝日が昇ったらまた出勤……





そんな私の愛人は超強力な栄養ドリンクちゃん





勿論まともな食事をしてる暇があるながら仕事か
ささやかな睡眠に時間を割いている…
嗚呼、もう…社畜人生万歳だチクショウ。





そんな毎日忙しすぎる私の背中を最高に不満げに見つめるのは
愛人の栄養ドリンクではなくて正式な最愛…
ただ、今の現状が最高に忙しくて私はいつだってその視線に気付かないふりをしていた





そんなある日の満月……






「花子、……っ」




「ん………ルキく、」




漸く仕事もひと段落ついたと思えば
後ろからその最愛にぎゅうと抱き締められて首筋に顔を摺り寄せられたので
嗚呼、もうそんな時期かと思い「いいよ」と言う意味を込めて優しく髪を撫でてやればブツリと裂かれた皮膚に思わず体を強張らせる。




私の最愛は普通の人間ではなくてそんな我々人間の血を啜る吸血鬼
しかも今まさに血を啜っている彼は自分には勿体ない程のイケメンでしかも肉体年齢は年下ときたもんだ。
まぁ随分と言葉は悪いが上玉をこの年でひっかけてしまったもんだルキ君は私の何処に惹かれてこうして付き合ってるんだろうと
何度も疑問を抱いたけれど、私を見つめて紡ぐ「あいしてる」の五文字にどうしても偽りを見出せなくて今こうして彼と寄り添い生きている。





こんな何処にでもいるような平々凡々で年増な私にアイシテルだなんて…そう思いながらも
心の奥底ではそれに酷く心地よさと嬉しさを抱いている私も彼を愛しているのだろう…
だから毎日毎日社畜生活で忙しくても彼が酷く渇いてしまうこの満月の日だけはこうして仕事の区切りを意地でもつけて
ルキ君にこの血を捧げているのだけれど、





「う」




「?」




そんな事をぼんやり考えていれば不意に苦しそうに唸った最愛に一つの疑問符。
するといつもならもっと吸っている筈なのに深く私の体にくい込んでいた牙はズルリと引き抜かれてしまい
眉間に酷く皺を寄せたルキ君からとんでもない失礼な言葉がひとつ。





「まずい」




「は?」




「花子、お前この一か月間どういう生活をしていた。そして何を食べてきた。」




どうしてかさっきまでちょっぴりエロちっくな雰囲気で吸血されていたのに
瞬きする間もなくあっという間に床に正座させられてこの一か月間の生活態度を晒せと強要されてしまう
ちょっといきなりなんなんだ…そんな私の目の前に怖い顔して仁王立ちして
え、何ルキ君は一人暮らしの娘の食生活を心配するおかあさんなの?




「えっと」




「早くしろ」




「は、はい!」





この突然訪れた生活振り返りチェックタイムに解せぬとブツブツ言葉を小さく漏らしていれば
低く唸られてしまい、思わずビシリと姿勢を伸ばして大きな声で応えてしまったが
忘れないでほしい……ルキ君がうん百年生きる吸血鬼だとしても今彼は高校生という立場で私は社会人
つまり一応私が目上なのに実際は私が子供でルキ君がおかあさん状態だ。





けれどこれ以上何も言わないとおかあさん、もとい最愛のルキ君の機嫌が
益々損なうと判断し、彼の言葉通り素直にここ一か月間の生活態度と食生活を振り返ることにした




「ええと、睡眠は……3時間取れたらいい方…ま、大体3徹は軽くしてた」




「ほう?」




「う、うう…怖いよルキ君……あと、食生活……あれ、何食べてたっけ?」




「花子」




「あ!お、お、思い出した!!思い出しました!!携帯食!!!携帯食食べてた!!クッキーみたいなの…って痛い痛い痛い!!」




素直に今までの生活態度と食生活を報告したいにも拘わらず
どうしてだか私の頭はギリギリとさっきまでこの体を気遣いながら吸血していたルキ君の手に鷲掴みされて思わず涙目になってしまう
痛い!!!なんなんだ!!!さっきまで優しかったのに今は優しさのかけらもないじゃないか!!!



じたじたとその締め付ける手から逃れようと体を捩るも全く解放されることはなく
それどころかずいっと酷く不機嫌そうな彼の顔が迫ってきてもはや愛しさどころか恐怖しかない。
やばい!何かわかんないけどルキ君すっごい怒ってる!!




「通りで血が不味い筈だ…そんなおかしい生活と食なんだ……よくもあんなこの世の物とは思えない血を飲ませてくれたな花子……あれは血じゃなくてもはやヘドロだ」




「はぁ!?ちょ、私血の味とかよくわかんないけどそれ失礼ってのはわかるよ!!仕方ないじゃん社畜だもの!!!休めないしまともな食事も、んぅ」





すごく怖い顔で凄まれたから何かあったのかなってビクビクしてればそんな言葉に流石の私も顔面に青筋だ。
そりゃ社畜だからちょーっとくらい乱れた生活をしたりまともなものを食べれなかったりはしたけれど
でも流石に最愛の血にヘドロはないんじゃない!?って相手に掴みかかろうとすればふいにそのまま唇を奪われ一瞬思考が固まってしまった





「ルキ、くん?」




「………………おい花子、キスが栄養ドリンクの味なんて聞いてないぞ」




「し、仕方ないよ社畜……ぶっ!?」





久々に絡めあった舌の感想がなんともまぁ…私の所為で色気のないものになってしまったけれど
それも仕方がないだろうと反論しようとすれば私の顔面に叩きつけられた一枚の紙。




「え、何…」




「退職届を書け、今すぐだ」




「はぁ!?」





その白い用紙に首を傾げれば反ってきた彼の言葉に思わず大きい声をあげてしまうが
私を見つめる瞳が酷く絶対的なものだったからその後の「ふざけるな、死んでも嫌だ」って言葉を出すことが出来ない





「花子、お前は社畜ではなくこの俺の家畜だ。家畜に多少の自由は与えようと思っていたがそこまで体を酷使しているのならもはや自由にさせる理由もない」




「え、で、でも私……会社辞めたら生活……」




「嗚呼、聞こえなかったのか?」





彼の言葉の続きに戸惑いの色を瞳に浮かべれば
クスリと口角をあげたルキ君が耳元でもう一度甘い声色でそっとささやいた





「花子、お前は俺の家畜だ……主人は家畜の面倒を見る……そうだろう?」




「え、それって、それってもしかして…!!!」




「嗚呼、お前の都合のいいようにとってくれて構わない」




そっと囁かれたその言葉、
どうしても自分に都合のいい私には遠回しのプロポーズにしか聞こえなくて
思わず顔を動かしてルキ君を見つめればニッコリとした笑顔に酷く胸が高鳴ってしまってちょっぴり苦しい





嗚呼、どうしよう…
私、きっとこのまま彼の言う通り退職届を書いて正式に社畜から家畜になってしまうんだろう





「きっとルキ君のお嫁さんになったら8時間睡眠で三食おやつつきなんだろうなぁ……ふふっ」




「まぁ……きちんと運動もさせてやる……でないとまた血が不味くなるしな」




「運動……ってちょっとどこ触ってんのよえっち。夜の運動は初夜からでお願いします」




さらさらと彼に肩を抱かれながら書いていくのは社畜との決別書…
きっと数日もしないうちにすぐにでも家畜としての誓約書も書かされるのだろうと思うと表情が緩んで仕方がない





「ルキ君、ルキ君、私……正式に家畜になるの、楽しみかも」



嗚呼、きっと
私の血はこれから不味くなることはありえないのだろう
だってずっと主人であるルキ君に
幸せに生活を健康的に管理されてしまうのだから…




そっと彼の腕の中でなんとも他の人が聞いたらドM丸出しな発言をぽつりと落とすも
その表情はきっと誰よりも幸せに満ちているのだろう自分自身でもわかるくらい
とても胸の内も表情も酷く穏やかに満ちてしまっている。




嗚呼、これから待ち受ける
主人である彼との生活に期待が膨らんで仕方がない





さようなら、社畜人生
こんにちは、家畜人生








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