寂しんぼう
「ああもう!疲れたつかれたつかれたぁぁ!!!」
「…………」
「まさかの無視!!」
今日も今日とて遅くまで残業してぐったり足を引きずりながらも最愛の部屋まで訪れたというのに肝心の彼はこの態度だ。
彼の部屋に入るや否や、ビジネスバッグも携帯も全部全部放り投げそのまま彼がいるベッドに体を投げだして喚いても無反応。
毎日満身創痍になりながらもこうして会いに来ている彼女にお疲れ様の一言もないとか何事だ……ってちょっとコイツまさか寝てるんじゃないだろうな!!
「シュウ君!起きて!!花子ちゃん疲れたの!!癒して!!!」
「んぅ………煩い…というかいい年こいたババァが自分にちゃん付けとかやめなよ……気色悪」
「そのいい年こいたババァがシュウ君の彼女だよ労われ!!社会人労われ男子高生めっ!!」
ぎゃんぎゃん喚いてもベッドに横になったきり一向に反応がないシュウ君にこっそり耳を澄ましてみれば
微かに寝息が聞こえたので慌ててゆさゆさと体をゆすって起こせば最高に辛辣な言葉が疲れた体を貫いて更にガラスのハートにまで届いてしまったので
思わず手近にあったふわふわクッションでシュウ君をぼふぼふと攻撃すればようやく眉間に深い皺ができちゃったものの体を起こしてくれた
普通の女の子がこんな事したら絶対にただじゃすまないのに
こうして私が無理やり起こそうとすると何だかんだで起きてくれるところはやはり私を最愛と認めてくれているのだろうと勝手にうぬぼれて少しばかりご機嫌になる。
「はぁ………いつもこうして毎日遅くまで頑張ってる私を見兼ねてどこかの逆巻シュウ君がご褒美に滅茶苦茶に甘やかしてくれないかなー」
「……………」
「え、ちょっとマジやめてよその目流石に泣いちゃう」
彼が体を起こしてくれたのに気分を良くした私はそんな彼の膝の上にゴロンと寝転がりご褒美をねだるけれど
そんな私に返ってきたのは自身が望んだような甘いシュウ君のご褒美ではなくて
じっとりとした、最高に不機嫌な視線を居心地の悪すぎる沈黙で、思わずふるふると首を何度も横に振ればふいに彼の両手に寝転がっていた私の体を強制的に起こされてしまった。
「シュウくん?」
「たかが人間の花子が俺に甘やかしてほしいとか図々し過ぎ、何様。身の程を弁えなよ。」
「え、え、え、」
いきなりの行動でされるがままに体を固めていれば
また彼女に対する言葉じゃないだろうというものをぶつけられてしまったけれど
今度は怒ったり反抗する余裕なんかない…
だってシュウ君、すっごく不機嫌な顔のまま私の膝に頭をのせて
ぎゅうって腰に抱き着いてくるんだもの
「えっと、シュウ君?」
「花子が俺に甘やかされるのとか一億年早いんだよ」
「え、そ、そんな……一生甘えれないじゃん」
彼の行動の真意が掴めず只々首をかしげるしかない私のおなかに
そのままぐりぐりと顔を埋めて摺り寄せてしまう彼にもはや戸惑いしかないが
その間にも放たれる言葉はトゲまみれでちょっぴり痛い。
そんな彼がチラリと顔を少しだけ動かしてその蒼い瞳でこちらを見上げてぽつり、呟いた。
「いつもいつも夜遅くまで俺より仕事選んで俺に寂しい想いさせる花子なんて甘やかしてやんない……あんたが俺を甘やかすべきだろ」
「ん………んんん!」
そう呟いたシュウ君は本当に不機嫌で、でも酷く愛しく思えて…
思わず私の腰に抱き着いている彼の頭をぎゅうと強く、強く抱き込んでしまった
「おい花子……苦しい」
「だってシュウ君が可愛いのがいけないんだよ、ごめんね、いつも寂しかったの?」
「煩い」
ぎゅうぎゅうと彼を抱き込んで時折その可愛い髪や頬に何度もキスを落としてやれば
やっぱり言葉は可愛くないし酷いけど
腰に抱き着く腕の力が強くなっているのを感じてしまってもはや何を言われても構わないと思ってしまう。
だってまさかシュウ君がずっと寂しいと思いながら私の帰りを待っててくれていただなんて思いもしないじゃないか。
「そうだね、私は甘やかされる前にシュウ君を甘やかさないとね」
「だから、俺はぜーったいに甘やかさないから……ほら、もっと頭とか撫でなよ」
「はいはい、わかったよ寂しんぼうシュウ君」
嬉しさと愛しさと、それからなんというか母性本能を限界までくすぐられてしまい
本来の目的である最愛に甘えるから正反対の行動をとりながらも私の表情はだらしなく緩むばかりだ。
「シュウくん、遅れちゃったけど………ただいま」
「…………おかえり」
私の言葉に聞こえるか聞こえないかの小さな声でようやくかえって来た素直な言葉に
胸の奥がふわりと温かくなった気がした。
嗚呼、この身長180cmの可愛い子が愛しくてたまらない。
ちらりとベッドの隅に放り投げていた携帯のディスプレイに映る日付を確認して
彼を抱き締めながら唇で弧を描く。
明日はようやく久々のお休みだ。
今まで寂しい想いをさせてしまった分、全力でこの愛しいひとを甘やかすとしようじゃないか。
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