クソババァとクソガキ


「ようクソババァ。誕生日オメデトな」



「ねぇねぇユーマ君。ユーマ君の方がぶっちゃけ何年も生きてるよね?何で私の事毎年毎年ババァって言っちゃうかな」




目の前の女への贈り物片手に今日と言う日に現れてやれば不服そうな表情で
俺の足を思い切り蹴るこいつは俺の想い人。
こいつの言う通り生きている時間は圧倒的に俺が長いけれどそれでもこの日…この日だけは
俺は目の前の女を皮肉めいてクソババァと呼ぶ。




「うるせぇよ花子。そりゃ俺はずっと生きてっけど外見見てみろ外見。オラ」



「あ、言っちゃう?それ言っちゃう?ごめんなさいねぇ私人間だから外見は時間が経つに連れ老いちゃうんですよぶん殴ってやる」




想い人…花子に嫌味ったらしい言葉を投げかけながらその小さな手に贈り物を置いてやればじとりとこちらを睨まれてしまうがちっとも怖くない。
今年もこいつへの贈り物はこれを贈るんだ。





「……今年もチョーカーありがと。」




「おう、これで何個目だ?」




「んー…忘れた」




「そうか……」




その箱の大きさから中身を察した花子が小さく笑って口にしたプレゼントの正体は大当たりで
俺もつられて笑うけれど…花子、テメェはチョーカーの意味を知っているだろうか。




「ユーマ君は毎年私に色んなチョーカーをくれるね」



「クソババァでも着飾るのを忘れたら終わりだろぉ?」



「だからなんでいつも誕生日はクソババァって言うの。失礼」




わしゃわしゃと花子の頭を撫でまわし、更に嫌味を追加してやれば
その顔は少し不機嫌になってしまうがそう言う顔も可愛いと思ってしまう俺は末期だろうか。






チョーカーを送るという事は「束縛したい」という事。





花子を俺のものにしたい。
こっちの種族まで堕として永遠を一緒に生きたい…それ位愛してる。
けれど肝心のコイツはそれに一向に応えようとはしない…





今年もこうして彼女は気高く人間としてひとつ、年を重ね、死へと近付いた





俺の時間は止まったままで花子だけが歳をとる…
時間が止まった俺と刻む花子…近付いているようでそれは酷く遠く離れていく。
嗚呼、俺は17のままで花子は今幾つだろう……





俺の「束縛したい」と言う想いは何度お前に受け流されただろう





「花子のクソババァ」




「うるさいよ。ホント、ユーマ君腹立つ」





うるせぇ、うるせぇ
腹立つのは俺だっつーの。




テメェはいつまでたっても俺の気持に気付いてくれねぇ
応えてくれねぇ……





弱くて脆くて愚かな人間のままだ……





けれど、何度誘惑しようが頑なに貫くその真っすぐな背中が
弱くて脆いはずなのに酷く強くて気高く見えちまう…
嗚呼、きっと花子は俺に応える事無く老いて朽ちるんだろうな




「花子のクソババァ」



「ほんっと可愛くないクソガキだね」



「うるせぇよ」




今年もひとつ、俺を置いてババァになった想い人に悪態をついてもう一度足を蹴られる。
いずれ訪れる花子の死まではこうして毎年毎年チョーカーを贈ろう。
聞き分けの無いガキの様に何度も何度も……






“花子、こっちに来い”





もし叶うなら……いつか俺がくれてやったチョーカーを両手いっぱいに抱えて
俺が生きているこの時計の外へと足を踏み出してほしいと、思う。



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