999の弾丸
嗚呼本当に腹立たしい。
ぶん殴りたい。
私は先程最愛のルキにサヨナラを告げられました。
「ああもう、なんなのあの馬鹿参謀。ホントは頭悪いんじゃないの?」
ブツブツと最愛への文句を垂れ流しながら不機嫌顔。
何が参謀系ドSだ。
その二つ名ダッシュしてカールハインツ様辺りにでも返上して来い。
「…………」
ガサガサと乾いた音を引きずりながらも先程の彼の言葉を思い返す。
今にも泣きそうな顔してあんなことを言われてもだ。
『覚醒が出来ないと分かった以上、俺と一緒に居るなんてつらいだろう………サヨナラだ』
ギリリと鮮明に思い出された言葉を脳内で反響させて強く歯を噛み締める。
さっき彼に別れを告げられたのは私が覚醒の出来ない選ばれなかった側の人間だと判明したからだ。
私とルキ間違いなく愛し合っていて…いや、愛し合っている。
なのに私が普通の人間だとわかってしまった瞬間この態度だ。
私はもういつまでも若いままの彼の傍で老いて朽ち果てる覚悟なんてとうにできているのにも関わらずあの馬鹿は一度言い出したら聞かない。
「馬鹿ルキ」
ガサガサ
ずるずる
可愛い顔だと彼が言った眉間にはお陰様で深すぎる皺。
私の事を第一に想うあまりに最高に間違った、馬鹿な選択をしてしまうルキに今は腹が立って仕方がない。
だってあの顔は……あの、表情は、
「傍に置きたいなら言えっての」
私にサヨナラと告げた彼の表情は酷く歪んでいて
参謀ならばそれ位私にバレないように演技でもしろと言いたかったが
長年彼を最愛としてずっと見続けていた私が少しでも彼の変化を見逃すはずがないだろう
きっとその酷く歪んだと感じた表情も、他の人から見たら普段のルキのままの顔だったのだろうがそうはいかない。
少しの変化でも察してしまう位貴方がだいすきよ
「馬鹿…馬鹿………前も言ったでしょうが。」
彼はいつだって私を最優先してくれる。
嬉しい…それはいつだって酷く嬉しいと同時に酷く残酷だと彼はまだ気付かないようで……
「最愛が我慢したり苦しい思いして辛いのは自分だけだと思うなよ」
きっと彼は悠久の時を生きる自身の傍に居れば
独り孤独に老いて朽ちる私の心がその恐怖に耐えきれるはずがないと判断して苦渋の決断として別れを切り出したのだろうが考えが浅すぎる。
私はそんな生半可な覚悟で異種族である…我々人間から見たらバケモノと愛し合ってきた覚えはない。
かさかさ
ずる…ずる
いつだって言ってきた。
ルキが我慢するのが私はつらいの、と
ルキが無理するのが私は苦しいの、と
なのにホラ、こうやって本当に肝心な時は
彼だけが我慢して無理してすべて背負い込もうとしてしまう。
そんな都合のいい我儘許されてたまるか。
「私はルキを孤独な悲劇のヒーローなんかに絶対してやらない。」
ずるずるずるずる
先程追い出された彼の部屋の前でピタリと足を止める。
嗚呼、もう「コレ」を引き摺るの…本当にしんどいんだからね。
「ルキ!!!!!」
「…………花子!?お前、いったいどうし……それは、」
深く息を吸って大きな声で扉の前で怒鳴り散らした彼の名前。
すると中で何かがバサバサと部屋から音がして数秒後、最高に考えが浅くて我儘で自己中な私の最愛がひょっこり顔を出した。
きっと突然大きな声を出したので驚いて愛読書でも床に落としたのだろうがそんなの知らない。
全部何もかも自身の中で自己完結して私に何も背負わせようとしないルキが悪い。
言ったじゃないか……楽しい事だけじゃなくて苦しい事も一緒に分け合おうって
どんな時でもずっと一緒だよって…
ずるずると引き摺ってきた「コレ」に彼は驚きで目を見開いたが
私はそんな彼を睨みつけ、ルキの視線が釘付けになっているそれを彼にたたきつける。
喰らえ。
私がどれだけ貴方を愛しているか
その身をもって思い知ればいい。
「花子、」
「愛してる!!馬鹿!!覚醒できないからなんなの!!私はずっと若いままのルキの傍でババァになって死んでいきたいんだ!!」
さっきまで我慢していた涙がぶわりと一気にこみあげてあふれ出す。
ねぇ……ねぇルキ、お願い…傍においてよ。
あんな辛そうな顔で、瞳でサヨナラなんて言われても余計に私も貴方も辛いだけだ。
「ルキはずっと私の事好きでいるの…ずっと私を傍に置くの……ひとりぼっちには絶対にならないの」
「嗚呼、という事はこの本数は………聞かなくても分かったよ。馬鹿花子」
ぐずぐずと今までの分ボロボロと涙を零して彼に子供の様に訴えれば
少しばかり固まっていたけれど私の言いたいことを汲み取った彼が小さく笑って私の体をもう離さないようにとぎゅっと抱き締めた。
嗚呼、辺り一面に広がる紅がとてもきれい
「自分から未来永劫囚われに来るなんて……お前は本当に馬鹿だな、花子」
「馬鹿じゃないもん……私はそうしたいってずっと思ってたのに話を聞く前に別れ話なんて言い出すルキの方が馬鹿だもの」
広い癖に肝心な時はちょっぴり頼りないその胸に顔を埋めてぐりぐりと先程離れていた分を埋めるように擦り寄れば
彼はくつくつと喉で笑って「すまなかったと」唇を優しく塞いでくれた。
そうだよ……ルキが考えている私の幸せが必ずしも本当に私の幸せになるとは限らない…
だからもう…二度とこんな馬鹿みたいにさっさと結論付けてサヨナラなんて言わないで。
私が彼の前まで引き摺ってきたのは999本の真っ赤な薔薇。
『何度生まれ変わっても貴方を愛します』
そんな意味を彼に叩きつけて私達はその赤に溺れる。
嗚呼、何だか血の海のようだ。
覚醒できないなら生まれ変わっても何度も何度も貴方を探して
何度も何度も貴方を変わらず愛するわ。
だからオネガイ…永遠を生きれないからって勝手に終わりにしないで。
私の魂はとっくに貴方に捧げてる。
「あ、ルキ……胸に、」
そっと一旦体を少し離せば彼の左胸に薔薇の花。
静かに払おうとすればそれはルキの手によって静止させられた。
「このままでいい」
「?」
「ホラ、」
彼の言葉の真意が掴めず首を傾げると
彼は意地悪に…それでいて嬉しそうに笑った。
「花子の愛に無い心臓が撃ち抜かれたようだろう?」
そんなクサイ台詞…
けれど、嗚呼………私の伝いたい事はようやくすべて彼に届いたのだと思うと
もう一度、静かにぽろりと涙を零してしまった。
今この瞬間をもって
最愛だけを優先してしまう残酷な我儘吸血鬼は死を迎えた。
私の切なる999の弾丸に空虚な胸を撃ち抜かれて―
戻る