左右の愛情
いつも私の左側にはシュウさん
そして右側にはユーマ君
シュウさんは右手で私と手を繋いでくれて
ユーマ君は左手で同じく私と手を繋いでくれる
間に挟まれて両手を彼らに繋がれて私はちょっぴり歩きづらい
これが彼らと私の暗黙の絶対ポジションで
今まで左右を変わった事なんて一度もない。
全くそれを疑問に思った事がないのだけれど
ある日、ぽつりとレイジさんとルキ君がこう呟いたんだ。
「花子さん、貴女は本当に穀潰しに愛されていますね」
「花子、お前は本当にユーマに愛されているな」
って……
突然そんな事を呟くものだから「どうして?」と聞き返したら
二人は全く同じ言葉を紡いで苦笑を漏らした
私を挟む定位置を見ていれば誰だってわかるって…
「と、いう事なんだけど、どういう事かわかる?シュウさん、ユーマ君」
ぽつり、幾ら考えてもレイジさんとルキ君の言葉の真意を見いだせない私は
本人達に直接こうして問うてみた。
本日も左はシュウさん、そして右はユーマ君とがっちり挟まれてるけど心地いい
だって私は二人が大好きで、きっと彼らも私の事…嫌いではない、はず…だから
もし私の事が嫌いならこうして三人一緒で歩いたりしない
特にシュウさんなんて歩くの自体めんどくさいのにこれはまさに奇跡
それにユーマ君だってわざわざ嫌いな女の手を毎日こうしてぎゅうって握ってはくれないはずだもの
「はぁ………鈍感鈍感って思ってたけど花子…あんたホント鈍感なんだな」
「ニート仕方ねぇよ花子は雌豚より神経がさつ女だから絶対言わねぇと気付かねぇ」
私の言葉にピタリと歩き進める足を止めて二人とも数秒顔を覗き込んで来て長ーい溜息の後にこの暴言だ。
あ、前言撤回。
私もしかして嫌われてる…とまではいかないけど最高に馬鹿にされてる気しかしない。
彼等の馬鹿に仕切った態度にちょっぴりむっとしてぎゅうと握られている手を強めに握り返して「不満です」と訴えれば
今度は小さく苦笑し始めるからくたりと首を傾げてしまう。
何なんだろう…左にシュウさん、右にユーマ君ってそんなに意味がある事なのだろうか…
「嗚呼、確かに……こんな最高に鈍感な女には直接言わないと分からないか」
「だーろ?おい花子……俺らの聞き手は?ん?それ位脳みそスッカラカンの雌豚でも分かんだろ」
「え、あ……えっと、シュウさんは左で、ユーマ君は右…」
未だに私を馬鹿にする言葉を続けながらヒントらしきものをくれたユーマ君の問いに答えるが何のことやらだ。
確かにシュウさんは左利きでユーマ君は右利き…それは知ってる
と言うかだからそれがどうした。さっぱりわからない。
問われた質問に答えるも、それが何を意味するのかさっぱり分からず
傾げる首の角度を深めれば二度目の溜息と共に走る額への軽い痛み
「いたっ!しゅ、シュウさんデコピン酷い!!」
「鈍感な花子が悪い……俺は左利きでこうして右手であんたと手を繋いでる」
「んで俺は右利きでこうして左手で花子と繋いでる……わかんね?」
ゆらゆらと主張するように大袈裟に揺らされる繋がれた両手
分からない……それがなんだっていうんだ。
幾ら考えても答えは出ないまま
するとそのゆったりと揺らされた手が大げさにぶんぶんと揺れ始め思わず「うわ!?」と妙な声が出てしまった。
そして鈍感すぎる私に観念して遂に明かされるこの定位置の理由
「俺達は効き手を開けてる……いつだって、花子…あんたに何かがあった時すぐに守れるように」
「けど愛しのお前とはこうして手を繋いでいてぇ……だから俺は左手、ニートは右手でテメェとこうして繋いでんだよ」
「!」
意外で優しすぎるそんな理由を明かされてドクンと心臓が大きく跳ね上がる
え、そんな、まさか……
嫌われていないとは思っていたけれどまさか……
まさかここまで大切に想われているなんて思いもしなかった
「んー?花子顔…赤いけど?まさか今更俺達に愛されてる自覚でもしちゃった?」
「はぁ!?今更かよ!オイ花子!!いくら何でも遅すぎねぇか!?この鈍感雌豚っ!」
「や、だ、って…あ、う……え、あ」
「ふはっ、呂律回ってない……」
彼等が明かした定位置の理由
それはレイジさんやルキ君が言う通り私が酷く愛されてるが故のもので…
そしてそれを私は全く気付く事なく疑問さえ抱かず普通にその中心にすっぽりと収まっていた。
嬉しくて恥ずかしくて…それでいて少し、いや…かなり幸せで
少し窮屈なこの状態は彼等の優しすぎる愛情表現で
嗚呼、なんだか私……これじゃぁ本当に
「ふたりにあいされてる…」
ぽつりと自然と出た言葉
けれどそれに嘘も偽りもなく、紛れもない事実
色んな感情が混じって少し震えてしまったその言葉をしっかり聞いたシュウさんとユーマ君は
一瞬顔を見合わせたけれどすぐこちらを向いて困ったようにこう呟いたんだ
「「今更」」
今日も今日とて私は少し歩きづらい
左側にはシュウさん
右側にはユーマ君
繋がれているのは互いの利き手と反対側
それはきっとこれからも変わらない
嗚呼、本当にどうやら私は彼らにとても愛されていたようで…
じわり
胸の奥が少し暖かくなった気が、した
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