リリエンベルグ
仕事の疲労からか、玄関から廊下までの間に、
書類が入ったカバン、ストッキング、スーツのジャケット…
社会で生きていくために身に着けていた装備を散乱させながらベッドに沈み込む。
わずかに残った彼の香りを嗅げば私を夢の世界へと誘う。
「シュ…ウ…くん……」
再び目を開いたその世界は青空の広がった心地のいい世界だった。
目の前には花々が咲き乱れる小高い丘。
その頂上に小さな木製のベンチが一つ。
手に何か感触を感じ、右を向くと先ほどの香りの主。
『花子…行こうか』
まるでエスカレーターで自動的にそこまで運ばれる感覚。
ベンチに腰かけると、自然と体はシュウくんの方へと倒れ、
シュウくんも自然と私を膝へと寝かす。
『花子…何で辛そうなの?』
私の頬を不安そうに撫でるシュウくんの手に自らの手を重ねる。
もっと感じたくて頬を寄せる。
「なんだか疲れちゃった」
めったに言えない愚痴が自然に出てきたのはここが何処か現実とは違うからなのだろうか。
『じゃあ…花子の全てをこの瞬間で埋め尽くしてしまえばいい』
…夢か。
シュウくんは気づいたら私の部屋に来ていて、手を握りながら添い寝している。
その顔を見れば癒されるのと同時に笑顔があふれる。
「シュウくんはどちらかというと、膝枕される側だよね」
邪魔そうな顔にかかった髪を避けてあげると、起きてしまったシュウくん。
まだ意識ははっきりしていないみたい。
『んん…花子…』
「おはようシュウくん」
『…誰の夢見てたの?寝言言ってた…』
誰のと言われればシュウくんだけど、
夢の中のシュウくんはいつものシュウくんとは別物で…
「シュウくんだけど…シュウくんじゃないような」
『…なにそれ』
不満げな彼が顔をしかめる。
せっかく私に会いに来てくれたのに…こんな暗い時間は過ごしたくない。
「夢の世界だから…じゃあ、現実世界のシュウくんはなにを御所望かな?」
その言葉を聞いたシュウくんは目を輝かせる。
一気に明るい表情に変わり、がばっと手を広げ、少し上下に揺れている。
『じゃあ、花子から抱きしめてキスして』
もっと大それたことを頼まれるかと思っていたから拍子抜け。
彼の希望通り、抱きしめながらキスを落とすと、頬を一気に染める。
声をかけてもなかなか返事が返ってこない。
揺さぶりながらシュウくんを呼ぶと、
『…あぁごめん…俺の全部が今、この瞬間で埋め尽くされたら
どんなに幸せなんだろうって、夢見てた』
意識を回復したシュウくんの言葉に思わず吹き出してしまう。
夢の中のシュウくんも素敵だったけど…目の前の彼女みたいなシュウくんが私は…
「好き」
『俺も好きだよ花子…』
今度見る夢は、シュウくんとの夢がいいな…。
そう願いながら、シュウくんに包まれて再び瞳を閉じる。
fin
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