いいお天気


「…はぁ」


仕事の終わりを知らせる鐘の音はとうになった筈なのに、
伸びたはずの陽の光も傾いて、西日が顔に当たるのがとても不快。

今日はとっても天気が良かったらしい。
らしいというのも朝早くからこの場で仕事をしていて、いいお天気というものを全く満喫出来なかった。
私がテレビの天気予報を気にするのは洗濯物を干す時くらいで…

今日は一段落がついたからここで切り上げよう。
どうせ明日も、その次も、私の休日というものも無かった事になるのだから…


私の周りにいたはずの同僚も、既に帰宅したようで、最後の締めの作業と着替えを済ませて外へ出る。

こうして帰宅時間に雨が降っていないだけでもいいお天気に感謝しなくてはいけないのかもしれない。


携帯の着信を確認しながら階段を降りていれば視界がめまぐるしく動く。
いや、私の体が…

転けた。
そう理解して、痛みに備えて瞳を強く閉じてもなかなか来ない鈍痛。

再び瞳を開いた時に、目の前に広がるのはキラキラと揺らめく彼の髪と心配そうな顔。


『…っ!!この馬鹿』

「シュウ…ごめ…ってなんでここにいるの?」


それはわざわざ言わなくてもわかるけれど…どうしても聞いてみたくなる。
私のことを待っていてくれたんだよね…?

そう思ったのに返ってきた答えは予想外だった。


『…こいつに話しかけてた』


指さした先にあるのは黄色い薔薇。
ちょうど会社の階段を降りたところに植わっている。
この薔薇を見るのも何回目だろう。それだけの回数、季節の移ろいを見てきた。

それでもその中でも今年の花はとても綺麗に見える。


「ふふっ、シュウが話しかけてるから今年は特に綺麗に咲いてるのかな?」

『じゃあ俺が毎日話しかけてる花子はもっと綺麗になるのか…?』


真面目な顔でそう返されてしまえば、思わず笑いがこみ上げる。


「もし私が薔薇なら年に2回しか逢えないんだよ?」

『…それは嫌』


急に視界がシュウの胸元で遮られたのと同時に、締め付けられる。


『年に2回…無理だからそんなの』

「それでも織姫と彦星よりは逢えてるんだけどな」


余りにシュウの腕の力が強くて、それほどまでに余裕のない彼が不安になる。


「シュウ…ごめん、こんなところで待たせて寂しかったよね…?」

『…は?寂しいとかありえないし、大体待ってないし、たまたまここが心地よかったから寝てただけだし、花に話しかけてただけだから。それに…』


いつになく饒舌な彼の口を封じてしまうと、少しだけしょんぼりとした顔で、


『…残業とかするなよ』


と本音をぽろり。

そんな彼が愛おしくて、今日の夜ご飯は彼の好きなレアステーキを作ってあげようと思う。

手を引きながら家路を行く。



「そういえばあそこで待ってたら同僚とかに会ったでしょ?よろしく言っておいてくれた?」

『あぁ、俺の彼女だけ残業させてお前は先に帰るのか、今晩は寝かせる予定もないから明日はよろしくって言っておいた』

「…よろしくの意味を履き違えてる」


明日から同僚にどんな顔をしたらいいのか分からないけれど…会社に行くたび、あの黄色い薔薇を見れば頑張れる気がする。




fin



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