第二章
「早く入りなよ」
「あ…はい…」
豪華なエントランスルームを抜け、広い廊下を進み、ある部屋の前へと来た。
「わぁ…!広い…!」
開かれたドアの向こうは、やっぱり外国のお城の一室みたいで、つい感嘆の声が漏れる。
「そうか?…まぁ、どうでもいいんだけど…こっち来て」
「はい…」
言われるがまま、彼が腰かけているベッドの脇へと近寄る。
「あんた…バカだな」
「え…?」
彼が小さく何か言ったと同時に、ぐっと腕を引かれそのままベッドに押し倒された。
突然のことに反応できずにいると、くくっ…と笑い声が降ってくる。
「何、固まってるんだよ…なぁ、あんた今自分がどんな状況かわかってる?これから俺に…何をされると思う…?」
「な…っ…!」
思考が巡り、ようやく自分の置かれた状況を理解しても、もう遅い。
覆いかぶさるこの人を押しのけることなんてできない。
「何の警戒もしないでのこのこと着いてきたあんたが悪い」
「いや!」
「暴れるなよ…んんっ…」
「っ…い…!」
首筋に鈍い痛みが走る。何をされているのかわからなくて、恐る恐る瞑った目を開くと、ゴク…ゴクと…彼が喉を鳴らして、わたしから何かを吸い取っている。
「…っ…!」
「ん…っ…くく…怖いのか…?くく…」
「いやぁぁ…!いや!」
「くく…いい顔…んんっ…」
怖い。怖い。いったい何をしているの?
この人は、この人は人間じゃない?
「っ…」
「…いいな…あんたの血…」
「血…っ…!?」
「そう…あんたの血を吸ってるの」
「っ…!!んんっ…」
「ん…」
平然と血を吸ったと言い、わたしの首筋から唇を離してそのままキスをされる。
口の中に鉄の味が広がって、恐怖のあまり涙が零れた。
「そんなに怖かったのか…?くく…それとも痛かった?」
「っ…いや…」
「嫌、じゃない…まだ全然足りないんだけど」
「あ、あなたは…何!?なんで血なんて…」
「ヴァンパイアだから」
「ヴァンパイア!?」
そんな存在、お伽話でしか聞いたことがない。
ましてこんな姿形が人間と変わらないで、普通に暮らしているなんて誰も思わない。
「うるさい…そんなことどうでもいいから…あんたの血をもっと寄越しなよ」
「いや!もう…痛い!痛いのはいや…!」
「なら…気持ち良くしてやるよ…」
「え…」
「痛いって泣いてる姿見る方が好みなんだけど…喚かれるとうざいからな…ん…」
「っ…う…」
さっきの噛みつくような吸い方と違って、ゆっくりと首筋に牙が挿し込まれるのがわかる。
全身の感覚がそこに集中して、熱くなっていく。
「…あっ…ん…」
思わず口から声が漏れてしまう。血を吸われるなんて恐ろしい行為のはずなのに、頭はぼうっとして、何も考えられなくなっていく。
「くく…もっと…声、聞かせなよ」
「ん…っ…ん…あ…」
「んん…は…今度は…どこから吸って欲しい…?」
「ん…あ…」
「言え」
「あ…胸…元…」
「…いやらしい女」
何を言っているんだろう。
もう自分が自分じゃなくなって、ただ熱に魘されて、この人に吸われたいと願っている。
「も…っと…」
「ああ…もっと…気持ち良くしてやるよ」
こんな言葉が嬉しいなんてわたしはどうかしてしまったの?
けれど、そんなことどうでもいい。
このままどこまでも、この人から与えられる快楽を貪りたいと、思った。
「気を失ったか」
「………すぅ…」
「無防備な顔して…くく…あんた、ヴァンパイアに襲われたんだぜ?」
こんな満月の夜に屋敷の前をうろうろしてるなんてな。
食われにきましたって言ってるようなもんだ。
「俺は普段はこんなに優しくないんだけど…どうしてだろうな…」
隣で眠る女の頬に触れ、高く上る月を見上げる。
「今日は家に帰してやる…けど…今度は逃がさないからな…」
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