お兄ちゃんの憂鬱


何だか最近末っ子の様子がおかしいんです。



いつもいつも棺桶に引き籠ってたはずなのに
最近はよくどこかへ出かけているようで、この前なんて僕の行きつけのお菓子屋さんに
あの図体の大きい体でショウウィンドウの前にべったりと張り付いていた。


…べつに僕には関係無いけれど。
関係ないはずだけれどやっぱり兄として少しだけ恥ずかしい。


そして今日はテディの友達を増やそうとこれまた行きつけの雑貨店に行ってみればまたスバルの姿。


…いい加減違和感が半端ないことに気付いてほしいモノです。


気付かれないようにチラリと背後から彼が物色している商品を覗いてみれば
何とも可愛らしいピンクのうさぎのヌイグルミとふわふわの犬のヌイグルミを持って
すごく真剣な目でその二つを交互に睨んできた。


…正直、気持ちわるいです。



僕はテディの友達の事もすっかり忘れて
今日こそはとその気持ちの悪い行動を起こしているスバルの後をつけることにした。



彼は小さな声で「よし!」と意を決してより可愛い方のうさぎのヌイグルミを手に取って
まるで不審者の如く挙動不審のままレジへ向かう。
ああ、店員が笑いを堪えてるじゃないですか。



「こ、こここここれ…ぷ、プレゼント用に…その、ラッピング…」



…プレゼント?
それはそうか、スバルが自分の趣味であんな可愛らしいうさぎさんを買ったのならば
レイジに頼んで精神科を受診させるところだ。


けれどあんな可愛いモノ…誰に?
そんな事を考えていればとっても可愛らしく包装されたうさぎさんはスバルの手に渡る。
…うん、とっても違和感。



スバルはそのまま、酷く警戒してキョロキョロと左右を見ながら店を出ていく。
あの、僕がずっと付けているんですがそれに気付かないなんて
ホント何に夢中になっているんだか…
というかもうすぐ学校なんですが、何処に行く気なんですか彼は。





「屋上?」



スバルの後を付けてやって来たのは意外にも学校の屋上だった。
ひょっこり物陰に隠れて彼の行動を観察していればなんだか落ち着かない様子。
だから気持ち悪いって言ってるじゃないですか。君は何処かの乙女ですか?



彼の行動にだんだんイライラしていれば不意に開かれる扉と可愛らしい声が響き渡った。



「あ、スバル君!遅くなってごめんね!…待った?」


「花子!あ、いや…べつに。俺だって今来たとこだしよ」



…嘘つかないで下さいよスバル。
あなたかれこれ30分はずっとそわそわしてたんですよ。
ええ、もうそれは気持ち悪かったんですから。



花子と呼ばれたその少女を見てスバルの顔はみるみる赤くなってしまう。
ああ、もしかしなくても彼はこの花子さんと言う女の子の事が好きなのか。



予想通り彼は数時間前買ってきた可愛いぬいぐるみ入りの包装を彼女の前にずいっと差し出す。



「ん、コレ…欲しがってたろ?」


「え?」



きょとんとした彼女がスバルの手からそれを受けとり、丁寧に包装紙を剥がせば
みるみるうちに瞳が輝いてとっても嬉しそうに微笑んだ。



「わぁ…これっ!欲しかったの!ありがとうスバル君っ!前も可愛いお菓子くれたし…なんだか悪いなぁ」



ああ、そう言う事か。
以前お菓子屋で張り付いていたのも彼女の気を引くためか。
なんだか健気すぎるスバルを微笑ましく感じたけれど
次の彼の言葉はいとも簡単に僕の逆鱗に触れてしまう。



「あーアレだ。か、カナトのヤツのパシリのついでっつーか…」



……………スバル、兄である僕をダシに使うってどういう事?



幾ら照れ隠しだからと言ってもそこで僕の名前を出すだなんて許せない。
ビキリと顔に青筋を浮かべてしまった僕はもう隠れる事なんてしないでズカズカと二人との距離を近付けていく。



「スバル」


「!?げぇ!か、カナト…!」



ガシリと彼の方を掴めば大袈裟に体を揺らして
先程まで赤面していた顔は今や顔面蒼白だ。
この様子だと、もう僕が全部聞いてしまっていたことは把握しているらしい。



ギロリと彼を睨んでからずいっと花子さんの前に顔を出してニッコリ微笑んだ。
スバル、僕をダシに使った罪は重いんですよ。



「こんばんは花子さん。あのね?スバルが花子さんの事大好きなんだって」



「…………え?」



「ば…っ、な…っ!カ…っ!」




僕の爆弾発言に真っ赤になって固まってしまった花子さんの頭を優しく撫でてあげる。



「僕の可愛くて健気な弟を宜しくね?」


「か…カ…っ!カナトォォォォオ!!!!」




僕の言葉に大きな声で叫び散らしたスバルにベっと舌を出す。
どうせ妙な所で臆病なスバルの事だ、告白するタイミングをはかりに図りすぎて
いままでずっと告白できずにいたのだろう。


そんな中僕の突然の告白代弁に酷く動揺したのかもう半ば涙目でブルブル震えてこちらを睨みつける。



けれど今、僕の傍には心強い盾がいる。



「あれ?スバル…愛しの花子さんの前でそんな怖い顔してもいいの?花子さん怯えちゃうよ?」



「あ、や…その…」



僕の言葉で我に返ったのか彼はおどおどしながら視線を泳がせる。
全く…本当に世話の焼ける弟を持つと兄は大変です。


徐にぐいっと花子さんを引っ張って背中を押して
そのままスバルの腕の中へと放り込めば互いにぼふんと顔を赤くしてしまう。
お互いに好きだと気付いていないのは本人達だけだって言うのに…ホントまどろっこしい。



「精々爆発してくださいね、バカップルさん」



そんな言葉を吐き捨てて僕は屋上を後にした。
ああ、これでもうあの気持ち悪すぎるスバルを見ないで済むと思えば清々する。



「ふふ、今度こそテディのお友達を見つけに行こうね…」



小さく笑って僕の最愛に話しかけて
再びもとに戻るであろう僕の平凡な日々に小さく笑った。



本当に、不器用すぎて呆れて溜息しか出ませんよスバル。





けれどそれ以来、恋仲になったスバルと花子さんが
僕の行きつけの店にたびたび訪れて僕と鉢合わせしまくって
またスバルとアンバランスすぎる光景を見て気分を悪くするのは別の話。



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