初めまして、愛おしい人


貴方の周りにはいつだってとても素敵で綺麗な女の人が沢山。


せめて私もその中に入りたいのに
それさえも叶わないでいる悲しい現実に、今日も笑って心で泣いた。



「こんばんわ、花子。…今日も美しいね」



「ありがとうございます、カールハインツ様」




上辺だけの微笑みと上辺だけの言葉に対して
私は心からの感謝を言葉にする。



そんな私に満足した愛おしい人は少しばかりその瞳を細めて
二三度頭を撫でて身を翻し他の女性の元へと私と同じくあいさつ回りに行ってしまった。



「…、」



言葉にできない言葉でぱくぱくと口を動かせば
チラリとこちらを見た彼が意地悪に笑う。
嗚呼、結局は私も沢山の女性のうちの一人で…
ううん、そんな彼女達と同じレベルにさえ達していない。



だって現に私は彼と取り巻きの女性たちとは遠く離れた場所で独りぽつんと立ち尽くしているのだから。


貴方に近付けるようにと着飾ったドレスも装飾品もいつだって無駄なものへと変わってしまう。



嗚呼、いっそ私の想いに振り向いてくれない貴方を嫌いになれたらどれだけ楽なのだろうか…




「かなしい…」



パーティのにぎやかな音楽に私の心の叫びはいとも簡単にかき消されてしまう。
ああもう、いつだって彼に少しでも見合うようにと頑張って背伸びしてきたのに
全部全部無駄なのか…


小さく息をついてその場を後にした。
これ以上女性に囲まれている彼を見て胸をズタズタに引き裂かれたくなくて。




「はぁ…寒い。」



1人きりでバルコニーに出て小さくため息。
もう、やめよう。
こうして彼の前に出るのも、精一杯おしゃれするのも今日で最後にしよう。



大丈夫、きっと時間がすべてを忘れさせてくれる。




「なら最後に…」




小さな独り言の後に遠くから聞こえる音楽に身を任せ、たった一人で淋しくステップを踏む。
ああ、本当はこういうのも貴方と踊ってみたかったけれど…



緩やかで優雅な音楽に任せて踊り続ければ
ガクリと体が揺れて、そのままペタリと地面へと膝をついた。



「ふふ…折れちゃった…」



ぽたりぽたりと地面に涙が落ちる。
ああ、何て不格好で無様なんだろう。



全て届くはずのない存在に恋をしてしまった私が悪いのだけれど…




ぽっきりと折れてしまったヒールを見て
ああもう背伸びさえ許されないのかと思えば悲しくて悲しくて
零れ落ちる涙は止まる事無くひたすら私の頬を濡らす。



あ、もう…
お蔭で頑張ったメイクも全部流れ落ちてしまった。



「う…ふっ…うぅ…」



誰もいないのだからもういいかと思って
情けない声も抑えることをしないでひたすらに泣きわめく。
いいじゃないか、失恋確定の夜位好きにさせてくれても…



「いらない…こんなの、もうぜんぶ、いらない…」



嗚咽を漏らしながらイヤリングもネックレスも全部全部外して遠くへと放り投げる。
彼が私を見てくれないのならこんなの全部意味ないもの。



最後に綺麗に纏め上げられていた髪さえも乱暴にかき乱して
普段の私に戻ってしまう。
ああもうさっきの私とは大違いで酷く平凡で醜い自分に自嘲してしてしまう。



「嗚呼、ここにいたのか…ようやくキミに会えたね、花子」



「ぁ……、」




背後からすこしばかり弾んだ声で名前を呼ばれて思わずビクリと体を揺らしてしまう。
だってその声の主は今一番この姿を見られたくない人物のモノだから。



「ずっと花子を待っていたのだよ?」



「や、みな…見ないで、くださ…」




意味の分からない彼の言葉なんて聞く耳を持たずに
必死に両手で顔を隠して、出来るだけ体を縮めて彼の視界から消えようとしたけれど
どうしてかそんな私をふわりと抱き締めてしまう彼に戸惑いを隠せない。



「カールハインツ様、なにを…」



「無垢な薔薇に無駄な装飾なんて、滑稽なだけ…そうだろう?」




ゆるりと頬を撫でられて心地よくて目を瞑れば
少しだけ困ったように笑う彼の声が聴こえた。
不思議に思い目を開けると嬉しそうに彼は笑う。




「私はこの“花子”に会いたかった…ようやく現れてくれたね」



「あの、どういう…」




今の私なんて何の装飾も付けていない、化粧だって落ちてしまって髪も乱れている。
背伸びさえできずに只々地面にうずくまっている無様な女なのにどうして貴方はそんなに愛おしい瞳で私を見るの?



意味が分からず固まっていれば不意に触れる彼の冷たい唇。
反射的に顔を赤に染めれば今度はまるでどこかの王の様に優雅に私の手にキスをした。
…実際彼は吸血鬼の王なのだけれど。



「初めまして、花子。私は背伸びをしていないありのままのお前に恋をした1人の哀れな吸血鬼さ」




彼のその言葉に私は今までの苦労が全て無意味な事と知り
嬉しさやら切なさやら悔しさで胸を一杯にして
再び盛大に喚き散らしてしまう。



先程と違う事は今度は一人きりではなく
愛しの彼の腕の中だと言う事だけだ。



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