臆病君の本音


「だ、誰だ!私の天使にこのふざけたジュースを飲ませた馬鹿野郎は!!」


「はいっ!俺です!!」



「地獄の底まで頭をめり込ませて来い!!」



「へぶぅ!」



全ての元凶である彼のお兄ちゃんのアイドル野郎の顔面を鷲掴んで文字通り地面にめり込ませる。
けれど彼も酔っぱらってしまっているのでげらげらと笑うばかりである。
…人が仕事から帰って来たと思えばこの惨劇。


ヴァンパイアにだけ作用してしまうお酒のようなジュースを事もあろうに大好きな大好きなアズサ君に
「アズサ君酔ったら面白そうだから」とか馬鹿げた理由で飲ませちゃったコウ君酔いが醒めた後もう一回ボコボコにしてやると心の中で決意しつつも、もう既に焦点が合っていないであろう彼に近付いて顔を覗きこんだ。



「アズサ君…平気?ベッド行こうか。立てるかな?」



「…………花子、」




相手は酔っ払いだから、普段以上に優しく笑顔で語りかければ
彼は普段より数段低い声で私の名前を呼んだ。
そしてそのままぐいっと腕を引っ張られてしまいソファへと押し倒されてしまう。



「えっと、アズサ君?」


「ねぇ、花子…なんでコウと話してたの?花子の彼氏は俺だよね?」



…ん?
何だか彼の様子がおかしい事に気付いてそのまま首を傾げれば
普段は滅多に見せない彼の眉間に皺。



「いつもいつもいつも、こんな時間まで仕事仕事…なに、花子は俺よりも仕事が大事なの?俺はこんなにも花子が好きなのに」


「あず、あずさくん…?」



ま、まさかの怒り上戸ー!!



今まで私の前でしゅんとしたり、泣きそうになったりはしてたけれど
こんなに怒りを前面に出してしまう彼は見たことがなくて
どう対処していいのか分からずに固まっていれば普段は言えなかったであろう彼の不満が大爆発。



「ユーマともルキとも仲良しだし、何、俺がいつも笑ってみてるから大丈夫って思ってたの?俺だって男で花子の彼氏だから嫉妬とかするよ?それとも本当に俺の事天使か何かだと思って軽く見てたりしてたの?」



「あのあのアズサ君…普段よりすっごく流暢におしゃべりになられておりますがひとまず落ち着いてはいかがでしょうか…?」



「俺は落ち着いてる」



いつもとは違ってはっきりと大きな声でそんな言葉。
思わずビクリと体を揺らせばアズサ君の眉間の皺は余計に深くなる。



「花子に幻滅されたくないからずっと我慢してただけ…俺だって人並みに独占欲位あるもん。」



「げ、げ、げ…幻滅なんてするもんかー!!!!」




彼のそんな独占欲が嬉しくて思わずぎゅっと抱き付けばいつもなら嬉しそうに笑ってくれるのに
どうしてか彼は不機嫌顔のまま。



「これもヤダ。俺が花子を抱きたいの。」



「アズ、アズ、アズサ君が男らし過ぎてもう私は生きていけない…!」




私の震える言葉にくたりと首を傾げて
それでもやはりぶすッとしちゃってるアズサ君。



「男らしい俺はキライ?…でも俺は花子を離す気はないよ」



「…………好きにすればいいと思う。」




そんな最高の口説き文句に私は全力で白旗を振って
彼に絡めていた腕を解いてされるがままにと言うようにパタリと腕を、体をソファに投げ出した。
そうしたらようやくアズサ君は嬉しそうに笑ってくれた。



「ふふ、花子…だいすき。」



天使だと思っていた私の彼はどうやら野獣だったようで
微笑んだまま私の唇に噛み付いてこれから起こるであろう快楽劇場の幕を上げるしなやかな指先に全てを委ねた。






「うぅ…死ぬかと、」


次の日、怠すぎる体を無理に起こせば隣で私をじっと見つめていたアズサ君とバチリと目があう。
反射的に頭を撫でればいつもの様に嬉しそうに目を細めてくれる。
ああ、もう戻っちゃったみたい。


少しだけ安心したような淋しいような感覚に苦笑いしながら
ちゅっと冷えた彼の唇にキスをした。



「アズサ君、昨日の事覚えてないでしょ?」



意地悪に笑えばどうしてか彼は困ったように微笑んだ。
そしてそのまま徐に私の手を取って音を立てた口付け。



「俺は臆病だから…ああいう、カタチでしか…本音が、いえない、んだよ…?」



「………え、」




その言葉は、昨日の事をすべて覚えていると物語っていて
彼があの飲み物の力を借りて普段言えなかった気持ちを私に暴露したと言う事になる。


ああもう、この吸血鬼は本当に愛おしい事をしてくれる。
勢いよく両腕を広げて彼の方へと向き直せばきょとんを傾げられてしまう首。



「花子?」



「さぁ、アズサ君。私を抱き締めて。私、今アズサ君を抱き締めたいのすっごく我慢してるから!5…4…3…」



「わわわ…、」



カウントダウンを始めれば大慌てでぎゅうぎゅうと彼からのハグ。
冷たくて、でも幸せであったかくて私の顔はだらしなく緩み切ってしまう。



「えへへ、アズサ君の本音が聞けるならあのジュースも悪くないかなぁ」



珍しく彼のされるがままに抱き締められながらそんな事を呟けば
恥ずかしかったのか少しばかり困ったような彼の苦笑に私も声をあげて笑った。



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