ウィンク
ぎゅっ
………むすっ。
ぎゅっ
………しゅん。
「…あ、アズサ君。さっきから何してんの?可愛いけど…」
私はさっきから謎の行動をしてる最愛君に首を傾げるばかりである。
ぎゅっと目を閉じては不機嫌に、またぎゅっとしてみれば今度は悲しそうにしゅんとしちゃってる。
今日は起きてからずーっとこんな感じだ。
どうしたのかな…アズサ君目痛いのかな?
彼の行動が理解できなくてじっとその悲しそうな顔を見つめていれば
小さな小さな声でまた意味のわからない事を呟きだした。
「ウィンクが…でき、ない。」
「え、何でいきなりウィンク?アズサ君アイドルにでもなりたいの?」
「………うん。」
「そうなんだーアイドルにねぇ…ふーん、ってぅええええええ!?」
アズサ君の意外過ぎる言葉に思わず大きな声をあげて
細い彼の体をぎゅうぎゅうと抱き締める。
ちょっとまってちょっとまって!!
こんな可愛いアズサ君がアイドル!?ふざけないでよ!そんな事したらアズサ君毎日女はべらせたい放題じゃんか!!
「ああああずあずあずアズサ君!ももももしかしなくても私に飽きちゃったの!?飽きちゃった系かな!?だからアイドルになって女の子はべらせたいの!?ハーレムなの!?アズサ君ハーレムなの!?」
ガタガタと体も声も震えまくりながらアズサ君に聞いてみれば
彼はとっても不機嫌な顔でぷくーっと頬を膨らませた。
「俺に飽きたのは…花子、さん…でしょう?」
「え?は?意味が分かんないよ?」
「…コレ。」
ずいっと私の前に出されたのは昨日買ってきたファッション雑誌。
そしてひとつ…ひとつだけ、彼がこんなにも不機嫌でアイドルになりたいとか言い出した理由が思い当ってしまい
私の顔は盛大ににやけてしまう。
「………アズサ君、お兄ちゃんに嫉妬しちゃったの?」
「………だって。花子さん…コウ、格好良いって…キラキラアイドル…素敵、って」
…言った。確かに昨日言った。
アズサ君が手に持ってる雑誌にたまたまコウ君が載ってて、すっごく格好良くあざとくポーズ決めちゃって
更にはバチリとウィンクもしてたと、思う。
思う…思うけれど。
まさか最愛がそんな私の些細すぎる言葉を気にして今日一日中ずっとウィンクの練習してたとか誰が予想できただろうか可愛すぎて死にそうです!
けれどそんな可愛すぎるアズサ君に乙女心をキュンキュンさせていると
昨日一瞬でもコウ君に視線をやっていた天罰なのか、彼は私のそんな乙女心ちゃんを勢いよく握り潰してくれたのだった。
「コウは家族、だから…すき。でも…花子さんは…俺の、だから…俺の、最愛…だから…いくらコウでも…あげたくない。」
「…あず、アズサ君…私、今…ときめきすぎて息できない。」
悲しそうな、不満そうな…そんな表情で呟かれた台詞はもはや私に息さえすることも許してくれなくて
苦しくて愛しくて苦しくて…
ぎゅっと彼に縋り付いて昨日、ちょっとでもアズサ君じゃなくてコウ君を見てしまった事を素直に謝罪する。
「アズサ君、ごめんなさい。もう私、他の男の人とか見ない。アズサ君だけ…アズサ君だけ、だいすき。」
「花子さん…ほんとう?ほんとうに、俺…だけ?」
「うん、アズサ君だけ…だいすき、愛してる。」
揺れる瞳でそう問われて、私はこんなにも大好きなアズサ君を不安にさせちゃったんだなって思うと申し訳なくなって
ちゅっと小さく音を立ててごめんなさいのキスをした。
ねぇだいすき。
私の事しか考えてない貴方が大好き。
だからウィンクなんて出来なくったって、キラキラ輝かなくたっていいよ。
私はアズサ君しか見てないんだなら…
「…ルキ君。今俺盛大にディスられた挙句馬鹿ップルのだしにされた気がするんだけど」
「…コウ、俺達の可愛い末っ子なんだ許してやれ。ダイナマイトを静かにしまいなさい。」
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