静かな怒り
「………」
「………」
気まず過ぎると勝手に私が思っている沈黙に
シュウさんに気付かれないように小さく溜息をついた。
正直…うん、嫉妬位してくれるって思ってたから正直泣きそうである。
事の始まりは数分前。
シュウさんが珍しくお買い物デートしてくれるって言ってくれたから
私は張り切ってオシャレして30分前に待ち合わせ場所に到着して
鏡を見ながらご機嫌に今日のファッションや髪形をチェックしていた。
するとタイミングの悪い事に数人の男性に絡まれてしまったのだ。
酷い言い方とかで断ってしまって気分を害されても悪いなって思って
彼氏がいるのでちょっとお遊びに付き合うのは難しいと
やわやわと断って困り果てていれば時間ぴったりに登場したシュウさんとバチリと目が合った。
…正直この時点で助かったって思ったんだ。
きっと「花子は俺のだからさわらないで」とか言ってくれたり
何も言わないにしろ手を引っ張ってこの場から救い出してくれるって…
でも現実はそう甘いものではなくて…
シュウさんはそのまま大きなあくびをしてくるりと方向転換してそのまま何処かへ行こうとしてしまったから
私は酷く慌てて先程まで気を遣ってやんわりお断りしていた男性達を突き飛ばして大急ぎて彼の隣へ走って辿り着き今に至る。
正直すごく怒ったんだって思ってたけれどそうではないようで
シュウさんはいつもの様に音楽を聴きながらゆっくりと私の歩幅に合わせて歩いてくれている。
…私ってもしかしなくても嫉妬とかされる価値すら無い女なのかな。
「しゅ、シュウさん…あの」
「ええと、こっちだっけ…花子の行きつけ…ほら、」
別に悪い事してないのにすごく後ろめたくなってしまって、なんとか言い訳の言葉を紡いでいれば
それは彼によって遮られてしまい、またいつもの様にやさしく手を取られてそのままお店へと誘導されてしまった。
…ホント、私ってシュウさんの中でその程度なんだ。
そう思えば酷く悲しくて
楽しいような楽しくないような複雑な心境の中お買い物デートはあっさり終了して
「今日はありがとうございました」とお礼を言ってサヨナラしようとすれば不意に繋がれていた手に力がこめられる。
「シュウさん…?」
「俺の部屋に来い。」
彼に促されるまま何も考えずに部屋へお邪魔すれば
どうしてだかいきなりベッドへ放り投げられてしまい状況が掴み切れない私は只固まってしまうばかりだ。
するとシュウさんがいつの間にか私に覆いかぶさっていて思わずドキリと心臓が高鳴る。
「なぁ花子…俺が怒らないし、妬かないから悲しかったんだろ。」
「…え。」
「“シュウさんは私が何されてもどうでもいいのかな?”、“シュウさんの中で私ってその程度?”…ぜぇんぶ顔に出てた。笑える。」
「……っ、」
見下されたまま嘲笑されて思わず顔に熱が集中してしまう。
全部見通されてたんだ。
すごく恥ずかしくて悔しくて何も言葉が出なければどうしてだかそのまま深く深く唇を奪われてしまった。
「しゅ、さ…?」
「本気で俺が怒ってないって思ってた?妬かないって思ってた?…なぁ花子、あんたどんだけ馬鹿なの?」
ギリリと両手首を酷く強い力でベッドに縫い付けられて思わず顔を歪める。
シュウさんはそんな私にお構いなく酷く冷静に淡々と言葉を続ける。
「ホントはあの場でアイツ等肉塊にしたかった…。本気になれば抜け出せるのに妙な気使ってアイツ等に優しい言葉をかける花子を犯したかった。」
「や…っ、しゅうさ…やぁ…っ!」
「はぁ?何怯えてんの…?アイツ等に言ったみたいに俺にも優しい言葉かけろよ。」
もうこれ以上強くされては骨が折れてしまうんじゃないかって位強く掴まれた手首はもう血が通わない。
代わりにミシミシと悲痛な音を上げるばかりで…
そして酷く冷たく言い放たれるそんな言葉に私の涙腺はあっけなく崩壊してしまう。
どうしよう…怖い。
私、シュウさんがこんなにも怖いって思わなかった。
「この唇いらない…俺以外に優しい言葉を紡ぐこんな唇。…このまま噛み千切ってやる…んんっ」
そっと指で唇をなぞられたかと思うとぶつりと言う音と、痛み、鉄の香りに
本当に唇を噛み千切られたと錯覚してしまった私は恐怖で今までの人生で一番じゃないかって位沢山の涙をボロボロ零してしまう。
怖い…こわい…コワイ!
ガタガタと震える体さえも彼に抑えつけられてもうどうしようも無くされるがままになっていればゆっくりと離された彼の唇は真っ赤に濡れていた。
「…酷い顔。…安心しろ、唇から吸っただけだ。」
「ふぇ…しゅうしゃ…うえええええん」
「ああもう煩い喚くな耳障り。…ホラ。」
再び這わされた指先で自身の唇が健在だと認識すれば
安堵感でそのまま声をあげて泣きじゃくってしまう。
するとシュウさんは長い溜息の後ようやくいつもの様に優しく私を抱き起してくれた。
「もうこれに懲りたら余計な輩に余計な気なんて遣うなよ?…花子が危険なんだから。」
「はい…はぃ…ごめ、ごめんなさ…ふぇ、」
「後、ちゃんと嫉妬してるし怒ってる。…花子の存在が軽い訳ないだろ。あんたはもっと俺に愛されてる自覚しなよ。」
そんな言葉を聞けばもう私の胸の中でシュウさんへの「すき」が溢れてしまってどうしようもなくて
自身からもそのままスリスリと縋りつけばまた長い溜息を吐かれたけれど
そのまま優しく背中を撫でてくれるシュウさんはもういつもの優しいシュウさんだ。
「シュウさん…シュウさん…ごめんなさい…本当にごめんなさい」
「ん…イイコ。もうこれからは俺の逆鱗に触れるような事はするなよ?…今度は殺すからな。」
優しいのにそんな恐ろしい台詞…
けれどそれさえも彼への愛おしさへと変換されてしまう私はもはや末期なのかもしれない。
だからどこからか聞こえて来た
数名の男性が行方不明となったなんてニュースさえもこの末期な頭には入る事はなかったのだ。
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