ホントの甘えん坊


「べ、別に無理しなくてもよかったんだけど…」



「…やだ。だって俺と行かなかったら花子は他の男とを浮気するんだろ。」




人聞き悪すぎる!!!
さっきからいつも以上に眠たそうなシュウ君が何度もごしごしと目をこすりながらも私の隣を歩いている。
空いている手は勿論ぎゅっと私の手と繋がっていて…
そしてなんと現在午前10時だ。


吸血鬼の…しかもいつも私の隣ですやすや寝ちゃってるシュウ君が!!
午前中に!!起きて!!私と!!デートをしている!!!



「はぁ…明日は絶対嵐だなぁ。」



「?天気予報観たけど暫く晴れみたいだったけど…」



私の小さな呟きに首を傾げてマジレスしちゃうシュウ君に苦笑。
そうだね、晴れだね。
うん、私の心も晴れ晴れだよ。



ちょっとどうしても行ってみたい期間限定のお店があって
けれど1人で行くのもなぁと思っていたら何とシュウ君がお供に名乗り出てくれたのだ。
…正直いつも寝てるから全然期待してなかったと言うのが本音である。
そしてノリのいいライト君かコウ君をお誘いしようかなって思ってたと正直に話せばもはや彼が止まることはなかった。



「この俺というモノがいるのに花子は他の男をデートに誘うの?え、浮気?浮気したいの?」
とか
「今まで花子が怯えたら可哀想だって思って手出さなかったけどいっそ出そうか?俺的には今すぐにでも大丈夫」
とか大暴走し始めたので寧ろ私から必死にデートしてくださいってお願いして身の危険を回避した。



…したのはいいんだけれど。




「しゅ、シュウ君…ホントに大丈夫?無理しなくていいよ、かえろ?」



「…………やだ。」




さっきからガクガクと首が揺れてるし、気を抜けば数秒ずっと目を閉じてて
時折電柱にぶつかったりしてるので心配になって気をきかせて帰宅を提案すれば
どうしてだかぶすっとふくれっ面になってしまったシュウ君は繋いでいる手にぎゅっと力を込めてしまった。



……意地になっちゃってる。



そう言うトコ、素直に可愛いって思うけれど
でも、あの…彼氏に向かって可愛いしか思えてない私は一体何?シュウ君の彼氏が私なの?
あれ、今宵はシュウ君を優しく抱いちゃわなきゃいけない系なの?
変な事をもんもんを考えてたら彼の足がピタリと止まった。
ん?どうしたんだろ…



すると先程まで繋がれていた手がするりと離れて
立ち止まったとあるお店の中へとふらうらとシュウ君が吸い込まれていったので慌てて後を追いかける。




「う、わぁ…すご…」



入ったのはとてもおしゃれなジュエリーショップ。
煌びやかな指輪やネックレスたちが美しくディスプレイされていて思わず感嘆の声をあげてしまう。
けれどシュウ君はそんな私を気にも留めず相変わらず眠そうなままふらふらと店員さんへと詰め寄る。
ああ…シュウ君、ちょっとはしゃんとしないと店員さんすっごく心配そうに見てるよ…だって今のシュウ君死にかけみたいなんだもの。



「ショウウィンドウにあったやつ……あれ。」



ゆったりとしすぎた口調で店員さんに何か指示を飛ばしたシュウ君は
そのまま再びこちらへと寄ってきて離されていた手をまたぎゅって握ってくれた。



「シュウ君…何か欲しいモノあったの?」



「……うん。ていうか欲しいモノを手に入れる為の道具があった。」



ちょっと意味の分かんない彼の台詞に首を傾げてたら「別に今は知らなくていい」って言われたので更に深く首を傾げる。
何だろう…シュウ君が欲しいものって…
まぁ男の子もアクセサリつけるしなぁ…シュウ君がそういうの好きとは思わなかったけれど。



暫くして店員さんがやってきたのでまたシュウ君の手が離れた。
………ん?なんだろ…もしかして私、淋しいかもしれない。
いつも「花子、花子」って私にべったりなシュウ君がこうしてちょっと離れちゃうだけで胸のあたりがぎゅってする。
え、これ…もしかして…



もしかしてシュウ君が私がいないとダメなんじゃなくて
私がシュウ君がいないとダメなの…?



それは一つ思い浮かべてしまうと瞬時にぶわっと体温を上昇させてしまい
自覚してしまえば離れてしまった彼との距離が淋しくてじわりと涙を浮かべてしまう。
やだ、どうしよう…私、こんなに淋しがり屋じゃなかったのに。



「花子おまたせ……、おいどうした。何で泣いてんの。」



「…シュウ君のせいだもん。」



「…………え、」




ようやく戻って来たシュウ君がボロボロと涙を零してしまっている私を見て驚きの声をあげたけれど
私は泣いている原因なんて恥ずかしくて言えないから少しばかり彼に悪態を付いた。
するとシュウ君の表情がこの世の終わりみたいなのになったので慌てて自分から彼の手を握った。




「えっと…行こう?用事、終わったんでしょ?」



「………ん、」




ぐいぐいと自分から彼を引っ張って、でも離れないようにと今度は私が繋がれ手に力を込めてゆっくり歩きだす。
そっか…私、いつの間にかシュウ君がいないと淋しくて泣いちゃうくらいシュウ君の事大好きになってたんだね。



「シュウ君シュウ君、だいすきだよ。」



「はぁ?俺の方が花子の事だいすきだし。」



「…ちょっと煽り耐性ゼロにも程があるでしょ。素直に受け取ってよすき。」



「やだ。これだけは譲れない。俺の愛がどんだけとか知らないだろ花子。」



自身の気持ちを素直に彼に伝えればどうしてだか自分の方が私の事を好きだと
長男でしっかりしてるクセに煽り耐性ゼロのシュウ君は対抗しはじめるから
二人の間でカーンと馬鹿げたゴングが鳴り響いた。



それから目当てのお店に行くまでどっちがどれだけ好きだとか
どんな所が好きだとかの言い合いになり、ちょっとはずかしかったけれど
こういうのもまぁ…たまにはいいかなって、思った。




「ところでシュウ君。さっきからそわそわしてるけど…どうしたの?」



「…さっき買ったのはいいけど、どのタイミングで渡せばいいのか分かんなくて俺ピンチ。」



「…誰に何を…っていったぁぁぁあ!!!?」



「いい大人なんだから今までの流れで察するくらいしろ馬鹿花子」



ぎゅうぎゅうと両頬を引っ張られて怒られてしまったけれど
そんなそんな、今までの流れってなんですかシュウ君。意味わかんないよ。



じたじたと頬を抓られまくって大暴れしてる私が
彼から「花子の事全部ほしい」って言われて婚約指輪を渡されてしまうまで後10秒。



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