25分前行動


「よし!そろそろ来るかなぁ…」



今日はようやく俺の仕事が休みになったから久々に花子ちゃんとデートの日。
いつも花子ちゃんが先に待ち合わせ場所に来て遅れて俺が登場って感じなんだけど。
…実はいつも彼女より早く来てそわそわしちゃう可愛い花子ちゃんを数分堪能している無神コウですこんばんは。



「お!きたきた!!」



変装もバッチリな俺は待ち合わせ場所がはっきりと見える喫茶店で彼女の登場をじっと待っていた。
時折色んなエム猫ちゃんが「あそこのイケメン素敵!」とか俺を見て言っちゃってるけれど
今はそれに応えてあげる余裕なんてない。


待ち合わせ時間10分前に登場した彼女はきょろきょろあたりを見回して
俺の姿が見えないって認識するとちょっとしょんぼりしちゃった。
んんん、可愛い。
…因みに俺が此処にやって来たのは彼女が登場する15分前である。




じーっと彼女を観察してみると、その服は前のデートの時に俺が可愛いねって言って買ってあげたものだったし
靴だって俺が前褒めてあげた奴で…
髪型もいつものラフな感じじゃなくて俺が前雑誌見てこの髪型可愛いねって言ったのと同じだ。
………花子ちゃんが俺の事好きすぎる。かわいい。



ぶるぶるとにやけてしまう顔を抑えながら再び彼女を見つめれば
すぐそばのガラスに自身を姿を写してチラチラと身だしなみチェックをし始めた。
そして不意にへにゃりと嬉しそうに微笑んだかと思うと慌ててその緩み切った顔をむにむにとマッサージしはじめる。



「うううう俺の彼女超かわいい…つらい。」



テーブルに突っ伏してじたじたと足を動かしてこのどうしようもない感情を発散させるけれど
それでも胸がぎゅうぎゅう締め付けられて苦しい。
だってあの顔…今から俺とデートできるのが嬉しくて仕方ないって顔だもん。
そんなの彼女の思考を読まなくたって分かっちゃうよ…



チラリと時計の針を見てみれば待ち合わせ時間を5分過ぎてしまっていた。
あ、やばい。
花子ちゃんの可愛さに悶絶してたら時間忘れてた。



ちょっと慌てて再び彼女を見てみると
さっきまで嬉しそうな顔をしてたのにじわりと涙を浮かべたかと思うと
ゆっくりその可愛い顔が下を向いてしまい。ここからでは見えなくなってしまった。
…そしてふるふると震えてしまってる花子ちゃんの体を見て俺は勢いよく席を立ち上がり
渾身の諭吉君をレジへと放り投げてそのまま彼女の所へ猛ダッシュだ。



今はお釣りとか細かい事言ってる場合じゃない!!
無駄遣いだってルキ君に絶対怒られそうだけれど今はそれどころじゃないんだってば!!




「花子ちゃん!!!」



「こ、コウ君…!うぇ…うぇぇぇん、コウくーん!!」



ようやく彼女の元へと辿り着けばバッと顔を上げた花子ちゃんの頬は涙で濡れていて
やってしまった!ってすっごい後悔の念が押し寄せる。
けれど俺が謝る前に彼女がぎゅうぎゅうと必死に俺に抱き付いてきてしまったから盛大にタイミングを逃してしまった。



「こ、コウ君時間になっても来てくんないから私、知らないうちにコウ君怒らせちゃったのかなって…おも…っふぇ…」



「え、えええええとええとその…う、うん!ちょーっと俺のファンの子達に絡まれちゃってさぁ!!あははー…」




苦し紛れの言い訳も、焦りまくってたからドラマのような演技力もないままで
只々抑揚のない棒読み状態で紡がれたその台詞に花子ちゃんの顔はますます悲しいものへと変わってしまう。



「コウ君…嘘ついた。…うぅ、私には話せない事してたの…?う、うわ…うわ、浮気…?」



「ああーもう!違うよ!!花子ちゃんより早く来て俺の事待ってる花子ちゃんを観察してたら可愛すぎて悶えちゃって時間忘れたのー!!」



「……え?……えぇ!?」




悲壮な表情と声でそんな事言われたらもう白状するしかないって思って
俺は今までの経緯を半ば自棄気味に懺悔すると、今度はぼふんと顔を赤くした花子ちゃんにちゅっと音を立ててキスをした。
だってさ、その表情は反則。可愛すぎなんだもん。




「こ、コウ君!ここ人前だよ!!恥ずかしい!!」



「知らないよ!花子ちゃんが可愛いのがいけないんでしょ!?もうこの俺をメロメロにさせるとか生意気!!」



「うええええん!!!コウ君がすっごく理不尽ー!!」



ぽかぽかと恥ずかしかったのか俺の胸板を何度も殴ってくる花子ちゃんをそのまま
ぎゅって腕の中へと閉じ込めて俺の不満をぶちまければ彼女の体が熱くなって俺に悪態を付く。
全く…そんな事言って無事でいられるのは花子ちゃんだけなんだからね!!



「まぁいいや。今回は遅れた俺も悪いし、可愛い花子ちゃんも悪いからおあいこって事で!」



「………解せぬ。」



「いいじゃんもーう!細かい事は気にしないのー!ほら、行こう?」



大層不服そうな表情である彼女の額を小突いて
そのまま手を取ってぐいぐい引っ張ってあげると一度小さなため息はつかれたけれど
すぐにまた嬉しそうな笑顔に戻ってくれたからちょっとほっとした。




さて、今日は何をしようか。




デート開始前に泣かしちゃったから
すっごいサービスはするつもりだよ?




「えへへ、覚悟してね花子ちゃん!」




取りあえず、今度はキミの可愛さに悶えるときは
ケータイのアラームをオンにしようと思います!



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