信じてよ


何度も何度も
好きって…
愛してるって伝えた。


けれど彼女はそんな言葉だけでは何も信じてくれない。



「なぁ花子…すきだよ。愛してる。」



「……今は、ですよね。」



ぎゅっと強く抱き締めて気持ちを伝えても
彼女の心臓の音が高鳴ることはない。
代わりに返ってくる言葉はいつものような淡々としたものばかりだ。



「花子、俺に愛されるのは嫌?」



「いいえ、嬉しいですよ。……嬉しいけれど、」




“只、私は貴方を愛しませんが”
…なんて事を息をするように言われてしまい、酷く胸が抉られてしまう。
嗚呼、この気持ちがよりにもよって最愛に届かないだなんて
俺は悲劇の主人公か何かなのだろうか。



「花子、花子…愛してる。」



「永遠を生きる貴方が心まで不変だなんて保障、どこにもないじゃないですか。」




何度も名前を呼んで愛を囁いていても
こうして少しばかり悲しそうに顔を歪めて目を逸らすあんたはなんて可哀想なのだろうか。



「どうして信じてくれないんだよ…なぁ。」



その事実が酷く悲しくて、俺の顔も声も
全て花子に引きずられて哀しく歪む。
嗚呼、愛を信用できないお前が哀れでとても悲しいよ。



「信じて…信じた先で、裏切られたら…飽きられたら私が惨めなだけなんだもの。」



ぐっと唇を噛んでそんな事言うなよ。
あんたがそんな事を言うから俺はこの恋心にも愛情にも見切りをつける事が出来ずに
こうして惨めに何度も告白をして何度も辛い想いをしなくちゃいけないじゃないか。



「花子だってホントは俺の事好きなくせに…愛してるクセに。なんで認めようとしないんだよ。」




信じて裏切られたら、とか
信じて飽きられたら、とか




そんな何も始まっていない時点で不安がるなよ
ああ、なんて俺は信用がない男なのだろうか…



そっと彼女のその小さな手にひとつ、俺の命を唯一絶てる凶器を握らせる。
キラリと光るそれはアンタを決して裏切ったりはしないって言う俺なりの決意表明だ。



「もし俺が花子を裏切るような事をしたらコレで迷わず刺せばいい。」



「シュウさん…」



戸惑いの表情と揺れる瞳さえも愛おしく感じてしまう俺はきっともう末期だ。
このまま花子に気持ちを受け入れてもらえないままならば
どうせ生きていた所でなんの喜びも、価値も見い出せない。



「今は花子に愛してくれなんて言わない。…でもさ、俺の愛だけは信じろよ。」



「で、でも…でもやっぱり、」



動揺を隠しきれずに堂々巡りな言葉を紡ぐその唇をそっと塞げば今にも泣きだしそうになってしまう花子に苦笑。
確かに怖いと思う。
信じた先の裏切りほど心を殺されてしまうモノなんてない。
けれど俺はその考えを理解はしても受け入れるつもりはない。



そっと彼女を手を取り、ぎらつく凶器を俺の胸へと宛がい優しく微笑めば
彼女の体全体にぐっと力が入る。



「もしこの気持ちが本当に迷惑なら今すぐに殺してくれても構わないけれど?」



「………、」



彼女は何も言わない。
何も言わないけれど、代わりにゆるゆると握り締めていた手を開く。
カラリ、小さな金属音が響いてようやく俺は彼女との第一歩を踏み出すことが出来たのだ。



「ありがとう、花子。俺はきっと…いや、絶対にあんたを死んでも愛し続けるよ。」




もう一度優しく唇を落として微笑むと
ようやく彼女の心臓がドキリと跳ねあがったのを肌で感じて俺は思わず抱き締める腕に力を込めた。
地面に落ちた銀のナイフがそんな俺と花子を見守るようにキラリと光った気がした。




もし俺が花子を裏切って、花子の心を殺したのならば
報復に俺の命を奪ったって構わない。
だからホラ、一度だけ…




一度だけでいいから俺の愛を信じてみてよ。



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