限定二時間


ピピピピピ…
けたたましくアラームが鳴り響く。
さて、本日も俺と花子の戦争が開始されるのだ。



「花子、起きろ…もういい時間だ。」



「………。」



ベッドの上でぐっすり眠っている彼女に対して優しい声色でそう言っても全く起きる気配もなければ俺の言葉に対して反応さえない。
全く…本当に花子を起こすと言うのは毎回苦労させられてしまう。



仕方なしに何度か彼女の体を揺らしても無反応。
小さく息を吐いて今度は強めに体を揺すり、名前を呼ぶ声も少しだけ大きくしてみせる。



「花子、花子…っ、ホラ、いい加減におき…」



「んんん〜!」



彼女の眉間に皺が寄ったかと思うと突然小さな腕がぬっと伸びてきて
何処から出るのかは分からないが、とんでもなく強い力で引っ張られてしまい
そのまま彼女のベッドの中へと引き摺り込まれてしまった。



「おい花子、本当にいい加減起きないと…」



「煩い、だまって、私は眠い。構って欲しいなら後二時間はこうしてなさい。」



「……………家畜、貴様。」




寝起きだからか、普段より若干低い声で唸られてしまい、俺を拘束する腕の力が強まる。
これも毎日の出来事なのでいい加減慣れては来ているが…



「全く…普段は敬語で常に俺の顔色を窺っていると言うのに…本当に貴様の寝起きは恐ろしいよ、花子。」



俺を抱いたまま再び眠りについた花子にそっとキスをして苦笑。
さて、後二時間。
俺もいつもの様にこのまま一眠りしよう。



そうすれば本当の目覚ましもきちんと機能してくれるだろう。



こうして一度軽く起こしてやって、再びゆるい眠りにつかないと覚醒してくれない俺の最愛の為に
毎日二時間早く起きてこのやり取りをしている俺は何とも健気にうつるだろう…
しかし俺にだって下心というものは存在するのだ。




「嗚呼、やはりこうして花子の腕に抱かれているのは心地いい。」



普段は引っ込み思案で遠慮しかしない彼女がここまで大胆になる瞬間はこの時しかなくて…
それを盛大に利用して花子に密かに甘えているのだと知ったら本人は何と思うのだろうか。




誰にも聞かれないように静かに笑ってぎゅっと俺も暖かな彼女の体を抱き締めた。




俺が唯一最愛に甘える事の出来る貴重な二時間…これだけは誰にも譲るつもりはないのだ。




(「ルキさんルキさん本当に毎朝申し訳ありません私とした事がもう本当にあああああ」)



(「………毎朝家畜の無礼を許してやっている慈悲深い主人に感謝しろよ。」)




(「…全く、俺も素直じゃない、な。」)



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