最期まで


「〜♪」


シャカシャカと私の耳元から少しばかり漏れる音楽にご機嫌。
こういう穏やかな時間は何年振りなのだろう…
首には心地いいくらいの圧迫感。丁度筋の部分に這う蝶はとても美しい。
そして何といってもこの椅子の座り心地と言ったらない。



「ああもう、最高だわ。」




うっとりと感嘆の声をあげてカチカチとボリュームを上げて
もっとこの素敵な音色の世界へと入り込む。
目の前に広がる景色も相まって私の心臓は痛いくらいに跳ね上がる。



私の血ばかり求めた続けたアヤト君
私をお人形さんの様に蹂躙したカナト君
私を最愛に見立てて犯し続けたライト君
私の体を使って沢山の薬を作り続けたレイジさん
私を殴って行き場のない感情を吐き出したスバル君



「ふふ…みんなだいすき。」




今までの思い出を振り返って嬉しくてくしゃりと微笑んだ。
みんなみんな私を求めてくれた。
すごく…嬉しかったよ?


じっともう動かない彼等を見つめてまた笑顔。
いいなぁ…赤いスーツは皆にとてもよく似合っている。
やっぱり肌が白いからだろうか…



ふと、私も彼等とお揃いになりたくて
先程から座っている心地いい椅子に指を深く突き立てて赤を掬い上げ、頬に塗り付けた。



「ほらほら!私もみんなとお揃いだよっ?ああもう幸せだなぁ…ねぇ、貴方もそう思うでしょう?」



首だけ後ろを向いて椅子に話しかけるけれど、当然の如くそれが応える事はない。
でも…それでもその顔は微笑んでいる気がして私の顔は更に笑顔を深める。



「……みんながもういらないって言うからいけなんだよ?」



静かな、穏やかなその言葉は只部屋に響いて溶けるだけ。
一通り私で遊び、飽きてしまったからとそう言うからこうなった。
ひどいよね。
もう私の心は貴方達のおかげでこんなにも依存して壊れて歪んだと言うのに最期まで面倒見てくれないなんて。



「まぁ一番酷いのは貴方か……ねぇ、シュウ。」



虚ろに目を見開いたまま亡骸になってしまった元私の最愛…もとい愛しの椅子に向き合って
固くなってしまった唇に静かにキスを落とす。
ああどうしよう…さっき傷口に指をツッコんでしまったからシュウの足に大きな穴が開いてしまった。



「愛してるって…言ってくれたのに、ね。」



彼等に酷くされて泣きじゃくっていた所を付け込んで私の体と血を貪り続けた貴方が一番酷いひと。
貴方に愛されていると錯覚して1人で幸せに浸って舞い上がっていたのに
ねぇ、どうして…?



「花子はもういらないだなんて…よく言えたわね。」



メリメリと首を締め上げる手に力が入るけれど
もうシュウは苦しがる事も抵抗する事もしない。




結局は愛されていなかった私。
まやかしの言葉を本気にして彼の掌で踊っていた哀れな私。
骸の顔を見つめれば蘇る鮮明な記憶。



ボロボロにされた体を優しく抱き締めてくれたシュウ。
「花子は我慢しすぎ。泣いていい」って言ってくれて頬にキスしてくれたシュウ。
「俺は…俺だけは花子を愛しているから」って甘く囁いてくれたシュウ。
「怖いなら、やめるけど?」って最中に頬を撫でながら言ってくれたシュウ。



貴方の全てが救いだった…
貴方の全てが私を留めていたのに…



「シュウが不用意に手を離すから化け物になっちゃったじゃない…」




静まり返った屋敷にはプレイヤーの音漏れと私の独り言しか響かない。
咽返る吸血鬼達の血の香り。
ゴロリと無造作に転がる五体の死体。
そして私を膝に乗せているトクベツな骸。




「ねぇシュウ…愛してるわ。」




貴方の愛が偽りでも
それでも愛してるわ。



けれど貴方は生きていたら私を捨てるし酷い言葉しか紡がないから
命は取り上げさせてもらうね?



「ああ、この瞳の代わり、見つかるかしら…こんな綺麗な蒼…そこらのガラス玉じゃ難しいわ…」



ミチ…
眼球に指を這わせて困ったように溜息をついた。
だって仕方ないもの。
こもままではいずれ腐ってしまうからシュウも他のみんなもちゃんと綺麗なまま剥製にしてあげないと可哀想…




「ちゃんと…ちゃーんと最期まで面倒見てあげるからね?」




途中で私を投げ捨てた貴方達とは違う。
私はちゃんと最期まで…ううん、最期を迎えても貴方達を…シュウを愛するからね。




「ふふ…だいすきよ」



きっとこの心からの私の言葉は地獄に堕ちた貴方達の魂にも届くって…
私は本気で思っているよ?



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