おにいちゃん!
「あ…っ、あ…、すば、スバルさん!スバルさん待ってください!!」
「………ちっ」
ちょっと後ろから慌てたような高い声が聞こえたから俺は小さく舌打ちをしてピタリと立ち止まる。
数秒後パタパタと駆け足で隣にやって来たのは俺の最愛だ。
「花子、おせぇよ。」
「スイマセン…私の足が短いばかりに。…スバルさんは足もスラって長くて格好いいですね!!」
「………しらねー。」
…何クソ可愛い事言ってんだこの馬鹿野郎抱きたい。
一生懸命俺を見上げながらもそのまなざしは憧れに満ちている。
別に花子の足が短いって訳じゃない。
只単に俺と彼女の身長差がデカいだけなのに彼女は俺を「羨ましい」と言いながらニコニコ笑う。
え?俺の彼女は天使だったっけな?
魔界に天使、いたっけ?
あ、違う。花子、人間だった。
…いかんいかん。
ちょっと頭おかしい思考回路になりかけた俺はぶんぶんと頭を振って
彼女の小さな手を優しく握った。
「す、スバルさん…?」
「こうしてたらその…アレだ!花子が離れて走ってこなくても済むだろ?」
「!スバルさん…!スバルさんはなんてお優しいんですか!!嬉しい…すっごく嬉しいです!!」
くそう!頬を赤らめて嬉しそうに微笑むんじゃねぇ惚れる!!あ、惚れてた!!!
花子は俺に手を握られたのが嬉しかったのか更に笑顔になって自分からもぎゅうぎゅうと手を握り返すから
俺の脳内がまたおかしな事になりそうでちょっとヤバい。
眩しい…花子の笑顔マジ眩しい。
あれだ、人間がつくった伝説上の吸血鬼なら0.5秒くらいで消し炭になる位眩しいというかもはや太陽。
「…っ!だ、だからちげぇだろ俺!!!」
「?スバルさん…?どうかされましたか?」
「………別に。」
また訳分かんねぇ事考え出した脳内にでかい声をあげてツッコミを入れると
不思議そうに俺の顔を覗き込む天使…あ、違う花子にそっけなく返事をする。
違う違うこんなの俺のキャラじゃねーし。
絶対どっかの大魔王的なアレが俺の思考をコントロールしてるんだそうにちがいねぇようん。
一通り冷静さを取り戻して、はたと気づけばもう俺の部屋だった。
…と言う事はここまで来るのに俺は花子の事天使だの太陽だの悶々と思ってたのか。
クソ、ありえねぇだろ。
俺の部屋につくや否や花子は繋がれていた手を離してぽふんと滅多に使わないベッドに体を投げ出して
ばいんばいんと飛んだり跳ねたりして大はしゃぎだ。
や、だから…ホント可愛い事すんのやめてください。
「はっ!す、スイマセン!!スバルさんのお部屋だって思うと嬉しくてついはしゃいでしまいました…」
「……や、別にいいけどよ。」
固まってしまっている俺に気付いたのか花子はしょぼんと眉を下げて
さっきまで飛び跳ねていたベッドの上でちょこんと正座をしてしまう。
…一々動きが可愛いつってんだよぶっとばすぞチクショウ。
バクバクとねぇはずの心臓が煩い気がしたけれど
あくまで冷静を装って彼女の隣へと腰掛ける。
そしてひとつ、今まで不満に思っていた事を口にした。
「なぁ花子、いい加減その“スバルさん”っつーのやめねぇか?一応…その、恋人同士だし、よ。」
「で、でもスバルさんは年上さんなのでその…あのぅ…」
「年上っつってもそう変わんねぇよ!つか俺がそう呼ばれんの嫌なんだよ。」
確かに花子は俺より下だけど、でもだからって「スバルさん」ってなぁ…
なんかすげぇ距離置かれてるみたいで俺は嫌だ。
じっと彼女を見つめていると花子はそのままうんうんと悩みだした。
きっと俺の新しい呼び方を考えてるんだろうけれど…普通に「スバル」でいいじゃねぇか。
恥ずかしいって言うなら別に「スバル君」でも構わねぇ。
………花子に「スバル君」って呼ばれんの、何かこう…クるな。
…あれ、何か一瞬ライトみたいな変態っぽい事考えてなかったか?俺。
そんな自分がちょっと怖くなってぶるりと体を震わせれば
花子が先程から悩んで下を向けていた頭を勢いよく俺の方へあげた。
その顔は全て解決したと言うような笑顔だ。
「お!俺の呼び方、決まったみたいだな。」
「はい!決まりました!!スバルおにいちゃん!!!」
……………。
ん?
いやいやいやいやさっきのは絶対聞き間違いだ。
なんだよその呼び方。
恋人通り越してもはや家族じゃねぇか馬鹿野郎かお前は。
でもなんだ…なんでこんなに…
何で俺こんなに馬鹿みたいにドキドキしてんの!?
「スバルおにいちゃんは末っ子さんだって聞いてます!だからおにいちゃんて呼ばれた事無いですよね?私だけ…私だけが呼べる特別な呼び方です。」
こ
殺 さ れ る !
そんな嬉しそうに目ウルウルさせながらいうんじゃねぇよ!!!
花子だけのトクベツな呼び方とかキュンキュンするだろうが馬鹿!!
ていうかこのままキュン死するわ!あれ!?キュン死って何だよ!
そして普段絶対呼ばれねぇからその分も相まってスゲェ嬉し過ぎてその呼び方やめろって言えねぇじゃねぇかクソ!!
ぶるぶると震えながら動けずにいれば花子は嬉しそうに寄り添ってきて
すりすりと俺の胸に頬擦りしてきてしまう。
「おにいちゃん…スバルおにいちゃん…だいすきです。」
ブツン
何かが切れる音がしてそっからの記憶は俺には存在しない。
気が付けば裸の花子は嬉しそうに俺に抱き付いてて
「スバルおにいちゃんはイケナイ事もすごいんですね!」とかクソ恥ずかしい事言ったから
つまりはそういう事で…
いや、うん。
おにいちゃんって響き、コワイ。
そんな事を考えつつも俺に抱かれて嬉しかったのか尚もぎゅうぎゅうと抱き付いてくる花子はやっぱり天使だし
白いその肌につけられた赤い痕をなぞれば「コレで名実共にスバルおにいちゃんのものですね!」とか可愛い事言いやがったから
もっともっと俺のモノにしたくてそのまま言わずと知れた第二ラウンドを開始してしまった。
後日、シュウに
「スバルは思考回路が煩いから寡黙組から出てけ」
とか訳のわからない事を言われたかと思うと
ライトに
「お兄ちゃんと妹ちゃん設定のプレイだなんて!ようこそ僕の世界へ!!」
とか言われて抱き付かれてしまったので
どうやら俺の考えも先日の行為も全て筒抜けだったんだって思うとすげぇ怖かった。
なぁ、誰だよ俺の考えと花子との甘い夜を実況中継しやがった大馬鹿野郎は。
「えーっ!?そんなのカールハインツ様から頂いたこの目を持った何でもお見通しスーパーアイドルのコウ君にきまってんじゃーん!!んもう!オトモダチの俺をほったらかしにして花子ちゃんとイチャイチャしてるからちょっと悪戯しちゃった!!」
「………だろうな。お前しかいねぇわな。」
その後、スーパーアイドル無神コウが
一週間の謎の休職を迎えたのは言うまでもない。
戻る