クズ人間に愛を
今日も今日とて仕事で大失敗。
最近休日出勤が続いてたから集中力が持たなかったんだろう。
お疲れ様でしたって言葉も震えて、もう何だか泣きそうだ。
「ねぇシュウ。私、なんで生きてるのかな。」
「はぁ…またそんなくだんないこと考えてるのか。」
私の唐突な一言に彼は大きな溜息を吐いて私を抱き締める腕の力を緩めた。
ああ、この彼氏君ともそろそろ潮時かもしれない。
気付かれないように私も溜息をついてその緩められた手を繋ぎとめようともしない。
だって仕方ない。
シュウに見放されてもおかしくない位私には生きてる理由がない。
仕事が特別できるって訳じゃない。
どちらかと言えば中の下位。
悲しいけれど私の代わりなんてこの世に腐るほどいる。
だからと言って彼…シュウと結婚なんて夢のまた夢。
だってシュウはまだ19だ。
結婚とかそんなの重すぎてうざいだろうし…というかそもそも種族が違う。
吸血鬼と人間が結婚して幸せな未来なんてある訳がない。
つまり今の時点で私には仕事人間として生きる資格も
家庭に入ってほかほか家族を作っちゃえるチャンスもない。
正直、そんな人間この世に要りますかって、話。
「あーもう、めんどくさい。」
「今の花子…俺みたいだな。」
「はいはい、そうですねーっと。」
気が付けば私の体を離れていた腕というか手が
何故か左手や指をむにむにといじっていたので、それに構わずぽちぽちとケータイをいじる。
面倒だよ…ホント。
さっきの言葉から察するにシュウも私の事いい加減面倒だと思い始めてるみたいだし、ここはもう潔く別れを切り出した方がいいかもしれない。
そもそも未来ある若者をこんなババァが独占してるのもどうよ。
というか正直未来のないこの関係って…疲れたと言うのがある。
私は人間の中でも弱い部類に入るというかクズの部類に入ってるって自覚はある。
ろくに仕事も出来ないし、かといって人格的に魅力がある訳でも体がスゴイって訳でもない。
極めつけは未来に保証がないとこんなにも不安定になってしまう幼すぎる精神だ。
先程来た合コンのお誘いメールに承諾の文章を打っていく。
もう疲れた…ここらで同種のテキトーな男をひっかけて形だけでの結婚でもして経済的に養ってもらえばいいや。
ああもう…こんな事考えるとか、ホント私ってクズ。
自己嫌悪と自暴自棄の狭間でのたのたと画面をタップしていれば不意にそれがシュウによってひょいっと取り上げられる。
ゆったりとその方向を見上げれば数秒、彼はじっとその承諾文章を眺めて何度か何かを打ち込んでそのままぽーいと携帯を放り投げた。
「花子ってさ…ほんと、クズ。」
「…うん。だからさ、そんなクズ私はもうすて、」
まぁね、分かっているけれど誰かにそう言葉にされるとグサリと来るもので
けれど事実だしちょうどいいやって思って別れ話を切り出そうと思えばどうしてだかシュウの冷たい唇で言葉を飲み込まれてしまった。
「シュウ…?」
「よくもまぁここまで俺の気持ちを踏みにじってくれるよな、あんた。」
普段より低い声でそう唸られてビクリと体が揺れる。
え、何?気持ちを踏みにじるって何?
よく分かんない。
というかシュウは私みたいな女面倒でしょう?
目の前のシュウが怖くて思考回路がうまく働かない。
その間に私は彼に押し倒されてしまって、何度も何度も唇や頬に冷たいキスが降る。
「勝手に自分が無価値とか決めつけて自己陶酔して?勝手に俺が花子をうざいって思ってるって決めつけて?…挙句は俺を捨てて他の男に鞍替えする気?…ふざけるな。」
「だ、だって全部事実じゃない…」
「そーいーうとこ、キライだよ。」
何でシュウが怒ってるのか分かんない。
だってホントに私は無価値だし、私の代わりは腐るほどいるし
こんなちょっとの事でへこんで鬱々とする女なんてうざいにきまってる。
そんな女、シュウはいらないでしょう?
戸惑い、動揺していれば不意に絡め取られた指先に可愛らしい音を立てて唇を落とされた。
ゆるりと開かれたその瞳はどうしてだかとても悲しそう。
「周りにおいてかれないように一生懸命走り回って頑張って仕事してる花子がすき。」
「しゅ…」
「こうして仕事で失敗して死にたくなるまでへこんで俺を頼ってくる花子がすき。」
「ま、って…」
「でも、勝手に自己完結して花子を馬鹿みたいに愛してる俺を捨てようとする今の花子はキライ」
「や、だ…」
待ってよ、やめてよ
何でそんな事言うの馬鹿。
そんなの今まで一言も言ってくれなかったじゃない。
今私の心はグラグラだ。
だって今まで思ってきたことと正反対な事を彼は言ってるんだもの。
さっきからちゅっちゅっと指先にキスし続けるその小さなリップ音さえ耳に酷く大きく響いてくる。
「ねぇ花子。トクベツ優秀でも、トクベツ人格者でも、トクベツいい体って訳でもない、どこでもいるどうでもいいアンタを愛させた責任位はちゃんと…とれよ。」
「なんで私なのよ。それこそ代わりはいくらでも…っ」
いってて悲しくなった。
私の代わりなんてどこにでもいる。
事実なのに悲しくて寂しくて、自分で言っておきながらポロリと零れた涙は
頬を伝い床に落ちる前に彼の唇に吸い取られてしまった。
「花子みたいな人間はどこにでもいるけど、“花子”はあんただけだろ、馬鹿。」
「……っ……っ」
声が出ない。
喉が詰まる。
もう涙しか出ない。
苦しい、やだ、これは苦しい。
代わりはいくらでもいるって思ってた。
でもシュウは私は私だけって言う。
当たり前の事なのにその言葉が酷く嬉しくて、苦しい。
「で、でも私…なにもいいとこない…っ」
「そうだな。」
「シュウ、いつもめんどくさそう…っ」
「ああ、めんどくさい。」
「シュウと一緒に居たって幸せになれない…っ」
「そんなの誰が決めたんだよ馬鹿花子。」
途切れ途切れに漏れる不満と不安。
優しく抱き起されてそのまま彼の腕に閉じ込められれば
初めて心までも包み込まれた気分になってふわりと安堵してしまう。
「別にさ、俺がアンタの生活に合わせるのは訳ないし、花子がそれでも不安ならこのままもっと深く深く交わってアンタをヴァンパイアにしてやってもいい。」
「シュウのクセにそこまで考えてるとか…生意気。」
「不安定でクズな彼女持つと悟り位は開けるぞ?」
そんな事言いながらも優しく頬にキスをしてくれて
嗚咽を漏らしながら泣いている私の頭を撫でてくれるシュウはホント一体何なの…
ぼんやりそんな事を考えてれば不意に先程むにむにいじってた指を絡み取られてしまう。
「ここに俺のって言う証、あげる。」
「…え、」
「そしたらちょっとは自信つくだろう?俺が愛する花子の代わりは他にはないって。」
流石に仕事の自信は付けてやることは出来ないけれど…
なんてそんな事を言われてしまい、私の顔はすぐさま真っ赤になってしまう。
だって今、彼がふにふにと触っているのは私の左薬指だ。
「花子は仕事も恋も自信なさすぎ。だからちょっと言われただけで死にたくなるんだ。」
「だってこんなわた、ぅむ」
ズバッと事実を言われて俯いて自虐的な言葉を紡ごうとすれば
またシュウの唇に飲み込まれてしまった。
そして不機嫌な彼は少しばかりはっきりした口調で言うのだ。
「クズ花子を愛してる吸血鬼の事も考えて発言しろ。馬鹿。」
「………ねぇ、流石にクズ花子って傷付いちゃう。」
そんな事を言ってみても、もはや私の顔は腑抜けた笑顔だ。
だって、シュウは馬鹿でどうしようもなくて全然優秀でもないどこにでもいる私を愛してるって言うんだもの。
「あ!ねぇシュウ、さっきのメール…どうしよう。私合コンOKって…」
「ああ、アレ…ちゃーんと“彼氏同伴でOK?てか連れてくし、自慢するしヨロシク”って打っといたから任せろ」
「……………ええっと、退職届、退職届。」
「いいんじゃない?ダメ社員の花子ちゃんがこんなイケメンな彼氏連れてるって…見せつけてやろうぜ。」
ニヤニヤといたずらっ子に微笑むシュウに向かって
今度は私が大きな溜息をつく番だ。
「ねぇシュウ。その溢れんばかりの自信、ちょっと分けてくんない?」
「ん?だから一緒になるんじゃないか。そしてらプラマイゼロで丁度いいだろう?」
当たり前の様に言うなよ馬鹿。
全く…年下のシュウに勝てる日って、くるのかしら。
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