トキメキバロメーター


私の大好きな人とは少し教室の席が離れてしまっている。
まぁいつだって隣同士がいいけれど、現実はそんなに甘くないものだ。
淋しくなんてないもの…別に…別に!



授業中、先生の話もそこそこに私はいつだってだいすきな彼の…ユーマ君の事をじっと見つめている。
あ、今日は寝てないんだ…ううん、でも眠そう。
ぼけーっと前を向きながら授業を聞いているか聞いていないか微妙なラインのユーマ君に思わず吹き出しそうになる。
あ、あくびした。
…かわいいなぁ。



じっと彼を見続けていればどうしてだか、長ーいため息を吐いたユーマ君は
突然こちらにぐりんと顔を向けてニヤリと意地悪に微笑んだ。



(み・す・ぎ)



「……っ!!…っ!!」



静かな授業中だからって口パクでそんな事を言われてしまって
今までユーマ君を見つめてたのがバレてたって思うとすっごく恥ずかしくなり、私は赤くなってしまって教科書で顔を隠してしまった。


ううう…恥ずかしい。
で、でも仕方ないよね。だって大好きなユーマ君の事、ずっと見てたいんだもん。
だからまた、チラリと教科書の隙間からユーマ君を覗いてれば
再びバチリと視線が合ってしまう。
すると、ユーマ君は困ったように微笑んでまた口の形だけで私に話しかけてくれる。



(だ・い・す・き)



ぼふん!
音出た…絶対私の頭からすごい音でたもん。
さっき以上に…もうこれ以上は無理って位顔を赤くして
もはや私はユーマ君が愛おし過ぎて目に涙が溜まっているし、先生には申し訳ないが授業の内容はさっきから全然入ってきていない。



でも、このままじゃ…なんかヤだな。
だってさっきから私ばっかりユーマ君に遊ばれてるみたいじゃないか。
そんなの不公平だよ!
ユーマ君も何かで私にドキドキしてくれたらいいのに!!



うんうんといろんなことを考えたけれど頭の悪い私には何も思いつかなくて…
もういいやって思って取りあえず今の気持ちを彼のマネをしてストレートに伝える事にした。



再びじっと彼を見つめれば、また視線に気付いてくれてこちらを見てくれるユーマ君は実は本当に優しい。
だから日頃の気持ちを私は声には出さないでそのまま唇だけで伝えるのだ。




(あ・い・し・て・る)



「!!」



瞬間、ユーマ君が勢いよく席から立ち上がってしまい、クラスのみんなと先生の注目を浴びてしまった。
え、な、何…一体どうしたのユーマ君。
そしてそんな彼から真顔で私に公開処刑宣告が下されることになってしまったのだ。



「センセー。俺、今すげぇ花子とヤりたい気分なんで保健室いってきまーす。」



「ちょっとぉぉぉぉお!な、何!何いきなり訳わかんない事…っうわぁ!?」



驚き発言に思わず私も立ち上がって反論してみるけれど
一瞬にして視界が大きく揺らいでいつもの様にユーマ君の肩に担がれてしまったのだと認識してしまえばもはやそこでじたじたと足を動かすことしかできない。



「や、やだ!降ろしてよユーマ君!!授業!授業受けたい!!」



「るせぇ!何が授業だ!!さっきから俺の顔しか見てねーくせに!挙句には愛してるだぁ!?んなの言われて黙ってられるほど紳士じゃねぇーわ馬鹿花子!大人しく抱かれろ!!」



「うわぁぁぁん!!ゆー、ユーマ君のトキメキバロメーターを侮ってた!!」



ぎゃんぎゃんと喚き散らしながら早々に教室を後にしてしまった私達が
その後どうなったのかとか…絶対に言いたくない。



取りあえず、言いたいことは…
これからは真面目に授業を受ける事。
不用意にユーマ君をときめかせない事。



この二つは絶対に死んでも守らなければいけないと言う事である。



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